霞ヶ関官僚が読む本
辛く、厳しい介護現場の現実。担い手をどう確保していくか

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介護現場は、なぜ辛いのか 特養老人ホームの終わらない日常  本岡類著 新潮文庫

   新人研修で泊まり込んだ特養ホームに始まり、これまで見学した高齢者施設は、優に100を超える。とは言え、「見学」とは、所詮「お客さん」。自ら働くことなく、介護現場を知っているとは言えない。本書は、人生経験豊富な初老の男性作家が、特養ホームの職員として、5カ月働いた経験を綴った、辛く、厳しい介護現場の現実である。

「この業界、さまざまなところで大きく歪んでいる」

介護現場は、なぜ辛いのか
介護現場は、なぜ辛いのか

   著者が介護ヘルパーの資格取得のために実習した精神病院の認知症閉鎖病棟で目撃した現実。「施設に入ると、まずは嗅覚、そして聴覚、視覚の順に、尋常ではないものを感じとった」。「最初の呼吸で、凄まじい臭いが鼻に入ってきた。糞尿や体臭が入り混じって醸成された臭気、とでも言うべきだろうか」「どこかから、長く尾を引く、叫び声が聞こえてきた」

   身柄を確保した容疑者の身体検査を行う時のように、廊下で患者を車椅子から立ち上がらせ、壁に両手をつかせて行うオムツ交換。問題行動の多い患者に対する何重もの拘束。著者曰く「何世紀か時が遡った気がした」とその衝撃を表現している。

   一方、著者が働いた特養ホームは、強烈な臭いなどなく、オムツ交換の際にベット周りのカーテンをきちんと閉めるなどケアへの配慮にも熱心な施設であったが、そんな〈しっかりした施設〉で働いた著者でも、介護現場にどっぷり浸かる中で、次第にその感受性が変わってきたという。

   「(認知症のため)思うようにならない入居者は数多い。皿のおかずをおもちゃにして遊んでしまい、注意しても止めない人。お気に入りのエプロンでない限り、着けようとしない人」。「(こんな入居者に対していると)認知症病棟での研修の時は、反発を感じていた言葉を、自分自身も呟いている。<まったく、わがままなんだから…>」

【霞ヶ関官僚が読む本】 現役の霞ヶ関官僚幹部らが交代で、「本や資料をどう読むか」、「読書を仕事にどう生かすのか」などを綴るひと味変わった書評コラムです。

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