キューバにカストロ革命政府ができたのは1959年。61年にはCIAが反革命傭兵をキューバに送るビッグス湾事件が起きた。ケネディ大統領が最終的に承認した戦闘だったが、3日で駆逐される。CIAはカストロ政権の転覆を狙い、カストロ暗殺が計画されたといわれていた。そのあとに起きたのが大統領暗殺事件だったのである。ウォーレン委員会の調査に、FBIとCIAは完全に協力したとはいえない。要求されて相当の資料は出したとはいえ、東西冷戦の中でスパイがしのぎを削っているとき、秘密活動を全部明らかにするわけにいかなかった。
「陰謀チーム」の調査員ウイリアム・コールマンがある極秘の調査を実行した記録は、どこにも残されていない。この黒人法律家は1964年の夏、ワシントンから飛行機でフロリダ海岸へ向かう。そこで、政府の船に乗って沖へ出た。20カイリのあたりで、ヨットを見つけて停泊する。そのヨットで彼はカストロと会った、いや、再会した。
コールマンは40年代か50年代にニューヨークのハーレムでカストロに紹介されている。カストロは夜更けのハーレムの音楽とダンスが大好きだったという。共和党員のコールマンはここで、カストロと知り合った。カストロについて「法律の素養がある、頭の切れる男」との印象を持っていた。
ケネディを「いまも悪く思っていない」
大統領暗殺の後、カストロは無実を証明するため、委員会の誰かと会いたいとワシントンに密かに伝えてきた。選ばれたのがコールマンだった。ヨット上で問い詰めるコールマンに、カストロは暗殺事件とキューバのいかなる結びつきも否定した。ケネディに対して「いまも悪く思っていない」といったという。3時間の会談だった。
洋上に向かったのは「CIAの船だったか、海軍の船だったかわからない」とコールマンは話したと書いてある。覚えていても言いたくなかったのだろう。この部分は分量も少なく、抑え気味に書かれている。スパイ映画のような話で、とても実話と思えないエピソードである。