霞ヶ関官僚が読む本
奔放放埓に酒精と異性に溺れ…「自由」求めてさまよった大正の奇人9人の物語

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「大正アウトロー奇譚 …わが夢はリバータリアン」玉川信明著 社会評論社刊

   本書は著者の「日本アウトロー烈伝」なるシリーズの第5巻である。著者は、「アウトロー」という言葉に本源的「自由」という意味を込めているが、常識的には「アウトロー」は無法者であろう。本書に登場する奇人たちは無頼ではあっても無法でない。既成の権威に反発し世間の常識や秩序からは脱線しがちで、多くは奔放放埓に酒精と異性に溺れるが、破落戸ではないし勿論極道などでは全くない。快男児と言いたいところだが、「江戸っ子は五月の鯉の吹き流し」というのとはちょっと違う。そういう意味ではこの奇人たちを呼ぶには、本書の副題にある「リバータリアン」というのが一番ふさわしいかもしれない。リベラルとはニュアンスが異なる、個人主義的な徹底した自由主義者という感じであろうか。なお、本書の巻末には「補遺」として、副題について、(書評子としては自らの浅学を棚に上げて衒学的と嫌味の一つも言いたくなるような)少々難しいすごい解説が付されている。

炭坑節作った「民衆の怨歌師」

「大正アウトロー奇譚」
「大正アウトロー奇譚」

   本書に登場する9人の奇人には、アナキストにして侠客風労働運動家の和田栄吉や、大正期の大阪の名物男で社会運動家の逸見直造などもいるが、文士や演劇関係者など文筆・芸術系の人物が多い。

   著者が「民衆の怨歌師」と評する添田唖蝉坊は炭坑節の作者であるが、十代の頃、桃中軒の浪華節を聞きに行く途中、壮士連の唄う悲憤慷慨憂国の演歌「壮士節」を聞いて夢中になり、町を歌い流す演歌壮士になった。自由民権運動が下火になっても、演歌に生き、結婚しても妻子を実家に置いて飄然と演歌の旅に出る。やがて社会主義者の堺利彦を知って反戦演歌を歌い、日露戦争後は増税政策を暗に批判する「ゼーゼー節」を歌ったりした。

   大正末期から昭和初期にかけての「エログロの総本山」梅原北明は、軟派出版取締りに対して無類の狡猾さを発揮し、「デカメロン」出版の折は、序文でイタリア皇帝やムッソリーニ首相に奉るとし、日伊親善を逆手にとっての警視庁の検閲を逃れたという。

【霞ヶ関官僚が読む本】 現役の霞ヶ関官僚幹部らが交代で、「本や資料をどう読むか」、「読書を仕事にどう生かすのか」などを綴るひと味変わった書評コラムです。

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