中国については様々な見方がある。今の世論の気分を的確に映し出す週刊誌で人気のある話題の1つは、日本を越えて「世界第2位の経済大国」になった、非民主主義国家である中国が自ら内包する矛盾で分裂し、没落するというものだ。
しかし、最近出版が続く未来予測本の1つの『2030年 世界はこう変わる アメリカ情報機関が分析した「17年後の未来」』(米国国家情報会議編著 講談社 2013年)の予測では、中国が強権化を進めることはあっても、EUと違い、分裂することは想定されていない。日本で中国への極端な見方が人気を博するのは、日本人自身の自分に対する自信の喪失の反映ではないかと感じる。
「日本人は心を強くもとう」
現実主義者として著名な国際政治学者の故高坂正尭氏の遺著となった『高坂正尭外交評論集 日本の針路と歴史の教訓』(中央公論社 1996年)の最後の章は、「アジア・太平洋の安全保障」である。「私は最近、若い研究者に対して、『中国問題は二十一世紀前半の最大の問題だが、それは私たちの世代の問題ではなくて、君らの世代の問題だよ』とよく言う。……中国問題が現実化するのは十~十五年先だ。……より基本的には、中国のあり方とそれが提示する問題は、この何年かの間におこったこととも、歴史書に書いてあることとも違う。まず、中国が弱かったときの行動様式、たとえば以夷制夷は現代中国外交の例外しか説明しない」といい、「部分にも歴史にもとらわれない中国論の出現を、私は心から待ちわびている」と遺言ともいうべきコメントを付した。
また、中国経済の今後の停滞を冷静に分析した好著『中国台頭の終焉』(津上俊哉著 日経プレミアシリーズ 2013年)は、「むすび」で「日本人は心を強くもとう」と意見する。遠藤誉著『チャイナ・ギャップ 噛み合わない日中の歯車』(朝日新聞出版 2013年)も内部事情に通じた著者の話題が興味深い。
日本が中国化する?
一方、戦後の日本外交においても大きな成果をあげた中曽根元総理が、「太平洋戦争を経験した世代として、戦争を知らない世代に伝えておかねばならぬことがある。それは二十世紀前半の我が国の帝国主義的膨張や侵略によって被害を受けたアジアの国々の怨恨は、容易には消えさらないであろうということだ。日本独特の『水に流す』は日本以外では通用しない」として、「我々の歴史の過去の過失と悲劇に対して、率直な反省を胸に刻みつつ、この失敗を乗り越えるための外交を粘り強く進めていく必要」を指摘している(「宰相に外交感覚がない悲劇」『新潮45』2012年11月号)。
東京オリンピックの開催決定など明るい話題で一息ついた今こそ、今後の着実な歩みのため、自らを省み、日本の歩んだ歴史を振り返るのにふさわしい時期ではないだろうか。
気鋭の日本近現代史研究者の與那覇潤氏は、『中国化する日本 日中「文明の衝突」一千年史』(文藝春秋 2011年)で、江戸時代を日本の起源とし、独自の日本モデルできた日本が、世界的には普遍的な中国モデルに転換する可能性を指摘する斬新な史論を提起した。その與那覇氏が、同じく歴史学者で、日本社会の公共性の構造の分析に取り組んだ東島誠氏と、歴史上の出来事において同じようなパターンが繰り返し生じる、変わらない日本社会の図柄について対話を行ったのが、『日本の起源』(太田出版 2013年)だ。本書では、古代から最近までの日本の歴史を概観し、歴史学の成果を踏まえ、日本のありようを議論する。そこには自国の歴史を冷静にみる確かな視線がある。さらに、新著『日本人はなぜ存在するか』(集英社インターナショナル 2013年)では、歴史学、社会学、哲学、心理学から比較文化、民俗学、文化人類学など、さまざまな学問的アプローチを駆使し、既存の日本&日本人像を根本からとらえなおす試みにもチャレンジしている。
「彼を知り己を知れば百戦して殆うからず」(孫子)は今こそかみ締めるべき至言だ。
経済官庁B(課長級 出向中)AK
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