霞ヶ関官僚が読む本
2030年の中国はどうなる 「分裂待望論」にみる日本人の自信喪失

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日本が中国化する?

   一方、戦後の日本外交においても大きな成果をあげた中曽根元総理が、「太平洋戦争を経験した世代として、戦争を知らない世代に伝えておかねばならぬことがある。それは二十世紀前半の我が国の帝国主義的膨張や侵略によって被害を受けたアジアの国々の怨恨は、容易には消えさらないであろうということだ。日本独特の『水に流す』は日本以外では通用しない」として、「我々の歴史の過去の過失と悲劇に対して、率直な反省を胸に刻みつつ、この失敗を乗り越えるための外交を粘り強く進めていく必要」を指摘している(「宰相に外交感覚がない悲劇」『新潮45』2012年11月号)。

   東京オリンピックの開催決定など明るい話題で一息ついた今こそ、今後の着実な歩みのため、自らを省み、日本の歩んだ歴史を振り返るのにふさわしい時期ではないだろうか。

   気鋭の日本近現代史研究者の與那覇潤氏は、『中国化する日本 日中「文明の衝突」一千年史』(文藝春秋 2011年)で、江戸時代を日本の起源とし、独自の日本モデルできた日本が、世界的には普遍的な中国モデルに転換する可能性を指摘する斬新な史論を提起した。その與那覇氏が、同じく歴史学者で、日本社会の公共性の構造の分析に取り組んだ東島誠氏と、歴史上の出来事において同じようなパターンが繰り返し生じる、変わらない日本社会の図柄について対話を行ったのが、『日本の起源』(太田出版 2013年)だ。本書では、古代から最近までの日本の歴史を概観し、歴史学の成果を踏まえ、日本のありようを議論する。そこには自国の歴史を冷静にみる確かな視線がある。さらに、新著『日本人はなぜ存在するか』(集英社インターナショナル 2013年)では、歴史学、社会学、哲学、心理学から比較文化、民俗学、文化人類学など、さまざまな学問的アプローチを駆使し、既存の日本&日本人像を根本からとらえなおす試みにもチャレンジしている。

   「彼を知り己を知れば百戦して殆うからず」(孫子)は今こそかみ締めるべき至言だ。

経済官庁B(課長級 出向中)AK

   J-CASTニュースの書籍サイト「BOOKウォッチ」でも記事を公開中。

【霞ヶ関官僚が読む本】 現役の霞ヶ関官僚幹部らが交代で、「本や資料をどう読むか」、「読書を仕事にどう生かすのか」などを綴るひと味変わった書評コラムです。

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