地域の再生を考えた本が2冊。農山村と商店街。どちらも今や衰えて、高齢化と無人化が進行中なのは、もう誰でも知っている。「再生」とは耳触りのよい響きだが、果たしてできるのか。それぞれの打開策を模索した問題提起に朝日、読売両紙の評価は高い。しかし、深刻さがよくわかったところで現実に即した具体的振興策は、まだ浮かんでこない。【2013年11月10日(日)の各紙からⅡ】
実際に農山村に移住する人がどれだけ?
一冊は『農山村再生に挑む』(小田切徳美著、岩波書店)。もはや存続の危機といってもオーバーではないのが農村、山村、漁村の現状だ。農林漁業にかかわる人は全体の4%。10%をこす県は青森、高知、鹿児島など六つだけ(2010年度国勢調査)。「誰が考えても尋常でない」と、読売の評者・ユーラシア史家の杉山正明さんは驚きを隠さない。本は10人の識者が地域の資源やコミュニティ、医療、生活などの面から再生策を論じている。
かならずしも農山村が住みにくいとは限らない、林野に覆われた列島の恵みを生かせと評者も強調する。そう言われれば「ごもっとも」とはうなずけるが、では実際に農山村に移住する人がどれだけいるか。振興策という名の政治手法では焼け石に水のような気がしてくる。「『広辞苑』に農山村という言葉が出てこない」と感心している場合ではない。
『イギリスに学ぶ商店街再生計画』(足立基浩著、ミネルヴァ書房)はシャッター通りのないイギリスに「成功の秘訣」を探せと提案。個性を活かした都市再生や観光の特徴づくりを力説する。その本に「ここ20年の日本は、世界と比較しても、大きく後れをとった」と、朝日の評者・隈研吾さんがうなずいている。
議論の一環として受けとめて
長期的ビジョンのない日本型政策の結果だと言えば、そうかもしれない。商店街と郊外型の大型店舗が対立している場合でも、もうない。協力して循環型の消費都市を再建できれば、それに越したことはない。
こうした観点を本はよく調べてある。ただ、だから今、イギリス式に対立党の政策尊重や全国チェーンをも味方にするやり方をと言われても、現実の日本でどこまで可能か。地元の意欲も体力も、政治の柔軟性も実行力もどうにも危うい。
指摘は理の当然。ただし、理論どおりに現実を改善できるのだろうか。ホントに?
示唆に富む問題提起であることは間違いない。ほしいのは、日本の政治経済や消費者心理に適用可能な具体策だ。まずは議論の一環と受けとめて提言の行方を見つめたい。
(ジャーナリスト 高橋俊一)
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