【書評ウォッチ】逃げ場のない島の原発反対運動 「原子力ムラ」対全島民500人

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   小泉純一郎元首相が原発反対論を語って話題になっている。一方で原発必要論も政財界を中心に根強い。延々と続きそうな論争に、現場からの発言といっていい『祝島のたたかい』(山戸貞夫著、岩波書店)が東京新聞に。原発建設を31年間止め続ける島だ。開発側が圧倒的に優勢だったころからの、それも、安倍首相の地元・山口県の話。耐えて生き抜く島民のしたたかさが、理屈を超えて読ませる。【2013年10月6日(日)の各紙からⅠ】

「雨後のタケノコ原発本と一線を画する」

『祝島のたたかい』(山戸貞夫著、岩波書店)
 『祝島のたたかい』(山戸貞夫著、岩波書店)

   計画されたのは中国電力の上関(かみのせき)原発。瀬戸内海に面する山口県上関町に、14万平方メートルの海面を埋め立てて改良型沸騰水型の原子炉を建てようとした。

   「豊かな漁場」「貴重な動植物の宝庫」といった反対論は当然にも起きるが、この本は「福島第一の事故後に雨後の筍(たけのこ)のように現れた原発本と一線を画する」と評者の安渓遊地・山口県立大教授。そこには切実すぎる事情があった。

   祝島は予定地の対岸3・5キロ。周囲はすべて海だ。万一の事故にも避難は簡単にいかない。荒天時と重なれば、もう逃げ場はない。だから周囲12キロ、人口約500人の小さな島が懸命に立ち上がるほかなかった。

   今でこそ反対運動への理解も関心も広がったが、1982年の計画発覚当時は電力会社を中心に政財官界、ご用学者・評論家あげての推進派「原子力ムラ」が大手を振っていた時代だ。島民たちは漁を休んで阻止行動を連日、しぶとく続けた。24時間態勢の見張りと毎月曜のデモは1100回を超した。

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