どんな分野にもマニアはいる。何でもとことんこだわってきた人の話は面白い。その一員らしいお人が書いた『ちょっとそばでも』(坂崎仁紀著、廣済堂出版)が読売新聞に出た。平日の昼に35年以上、大衆そば・立ち食いそばを食べ歩いて記録してきた練達の士だ。本は東京近郊の100店をマップ・写真つきで紹介する。成り立ち、味、雰囲気などが醸し出すどんぶり一杯の小宇宙。ガイドと同時に個性的な考現学にもたしかに通じた一冊だ。【2013年9月29日(日)の各紙からⅡ】
早い、うまい日本のファストフード
著者の経歴がユニークだ。肩書は「大衆そば・立ち食いそば研究家」とある。どうやら中学生のときから庶民の味「立ちそば」に魅せられてきたらしい。東京理科大学卒の薬剤師資格を持ち、今は医療IT関係の業務のかたわら「自身の体で大衆そばの有効性に関する超長期追跡試験を実施中」と出版社サイト。有効性とは具体的に何か健康増進でも? そのへんはもう一つ分からないが、あまりうるさく追及するのはヤボだろう。
思えば、日本がほこるファストフード。100点を「早い、うまい、毎日食べたい」「メニュー・製法にこだわりを持つ」「大衆そばを超える」各店に分類、歴史的、系統的に考察したのだそうだ。「全編しずかに、しかし沸々とファストそばへの愛と誠がみなぎる」と、評者の平松洋子さんは手ばなしの礼賛ぶりだ。
こちらは日本のパンケーキ=どら焼きとお好み焼き
世は景気不景気にかかわらず、根強いグルメブーム。テレビや雑誌にあふれるセレブなレストランや究極のラーメンとならんで、一角にこの本があってもいい。「立ちそば」はこれからも人々に支持され、しぶとく生き残っていくはずだ。そう思わせるマニアックな内容。東京近郊だけでなく、全国各地を調べていただければ、もっと楽しめる。札幌とか福岡とか、著者の情熱に期待したい。
食べ物本ではこのほか、『パンケーキの歴史物語』(ケン・アルバーラ著、原書房)が日経新聞に小さく。原形は新石器時代にすでにあったという。長い歴史と現在の世界各国での食べ方を米国の歴史学者が大まじめに考えた。
日本から紹介されたのは、どら焼きとお好み焼き。あれはパンケーキだったか? 「でんぷん質の生地を焼いた平たい食べ物」ではある。おいしければ、この際、まあいいか。
こだわりをまとまめるとなかなか面白くなるのは、なるほど世界共通らしい。
(ジャーナリスト 高橋俊一)
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