「保守のエッセンス」を探る
また、この関係で評者が連想するのが、2012年2月24日号の「週刊金曜日」のコラム「中島岳志の風速計」に書かれた「浅田真央のリアリティ」である。中島氏は、浅田真央さんの、亡くなったお母さんについての発言を題材に、死者となった親しい人との出会い直しを語る。同様に、土光氏の生を死者となった登美さんが後押ししたのではないのか。死者になった母のまなざしが土光氏にはみえるのだ。本書『母の力』は、土光氏の言葉に、その母・登美さんの言葉を重ね併せる。奏でられた言葉は心を揺さぶるものとなった。
なお、中島氏の新著『「リベラル保守」宣言」(新潮社 2013年)は、橋下徹氏を批判したことからそのリスクを負える出版社に変更になったことが話題となったが、氏の「保守のエッセンス」を探る真摯な姿勢が印象的な著作だ。
夏は、日本国の大失敗である第二次世界大戦に思いを馳せる季節である。内閣府事務次官の松元崇氏の『持たざる国への道 あの戦争と大日本帝国の破綻』(中公文庫 2013年7月)は、卓越した行政実務家の技量で、70年近くたっても直視できないこの歴史を我々につまびらかにする。また、真珠湾攻撃の米国側への通告遅延に匹敵する日本外交の失態と目されつつある尖閣国有化について、関係者への綿密な取材をもとに描かれた『暗闘 尖閣国有化』(春原剛著 新潮社 2013年7月)は、この時期に熟読に値する労作だ。
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