医療に不信や不安を感じた経験のない患者はめったにいないのでは。患者や家族の側から問題をついた『医療大転換』(葛西龍樹著、ちくま新書)が毎日新聞に。
無駄な検査や投薬がない、たらい回しもされない、24時間いつでも相談できる。市民が求めるのは、まずはこういう医師と医療制度。解決策として家庭医という「あなた専門の医者」作りを提言する一冊だ。
医師の次元から何が必要かを説く『医師は最善を尽くしているか』(A・ガワンデ著、みすず書房)とともに読むと、いっそうわかりやすい。【2013年9月8日(日)の各紙からⅠ】
日本はプライマリ・ケア後進国
本が強調するのは「身近にあって、何でも相談にのってくれる総合的な医療サービス」で、つまりプライマリ・ケアとそれを担う「家庭医」の重要性。日本ではほとんど未確立の状態だ。
健康に不安を感じた人の多くがまず総合病院へ行ってしまい、その待合室は大混雑。普段からかかりつけのデータもないから検査、検査。おまけに、医療費は出来高払いなのでどうも高くついてしまう。著者は、この面で日本がいかに後進国なのかを指摘する。
プライマリ・ケアの先進国・英国の家庭医は1人につき年55ポンド(為替レートにより8500円前後か)で登録者の健康を管理してくれるという。必要以上の投薬や検査を防げる。福島県立医大に勤務する著者は、大震災後、プライマリ・ケアのない地域医療の弱点を痛感したのだそうだ。
医師は手を洗おう!
無駄なことは極力省いて、早く適切な診察をと願うのは、誰でも当然だろう。「日常大事なのは、健康診断でちょっと怪しいと言われた時に相談に乗り、適切な対応をとって安心させてくれる医師であり、医療だ」と、評者の中村桂子さん。
旧厚生省に懇談会が組織され、家庭医制度が生まれそうになったことはあったが、なぜか実現しなかった。その話も含めてうなずける内容だ。
もう一冊の『医師は最善を尽くしているか』は、現役の外科医が医師に勤勉さや基本的な衛生管理を求める。その一例がなんと手を洗うことの必要性というから、驚かされる。
異性患者の裸とどう向き合うか、適切な医師の給料は? 医療現場の11のエピソードから質向上へのやりくりをつづっている。手ぐらい、きれいに頼みますよ、先生方。
(ジャーナリスト 高橋俊一)
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