【書評ウォッチ】「観光」や「征服」を目的としない 富士山文化の全貌を解説する本格ガイド

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   世界遺産となり当り前のように登山ブームにわく富士山を、「観光」や「征服」とはひと味もふた味もちがう視点で見つめた『富士山文化』(竹谷靭負著、祥伝社新書)を日経新聞が読書面トップ記事の一部で。登録からもれた重要遺跡もまとめて、富士山文化を解説した。理解しながら歩き、歩きながら理解してという思いがこもった本格的案内書だ。【2013年9月1日(日)の各紙からII】

富士五湖や白糸ノ滝の文化的価値は

『富士山文化』(竹谷靭負著、祥伝社新書)
『富士山文化』(竹谷靭負著、祥伝社新書)

   登録範囲には富士五湖や白糸ノ滝、胎内樹型が含まれているが、その文化的価値はどこにある? こう問われてすぐに答えられる人は少ないだろう。それでも人はどっと押し寄せる。また、関東一円に現存する富士塚がひとつも含まれなかったのは、それに値しないのだろうか。

   こういう話が出てくるのは富士山の信仰文化研究に打ち込んできた著者ならでは。「富士塚」に参拝しよう、「登拝道」をたどろう、山麓の遺跡を訪ねようと提案、本は文化探訪の意義を強調する。「世界遺産(の一つ)の征服を目的とするかのような挑戦的登山ではない、落ち着いた富士山の文化理解のための好著である」と、評者の日高健一郎さん。「富士山学」の入門書といった側面も備えている。

万葉から太宰治までの多様な姿

   『富士山の文学』(久保田淳著、角川ソフィア文庫)も同じ記事の中に。こちらのテーマは日本人がどんな言葉を富士山によせてきたか。風土記や万葉から太宰治まで。多様な姿で描かれてきた富士を、史実の解釈とともに解説した。

   古代の常陸風土記や聖徳太子伝説、中世の平家物語や頼朝と曾我兄弟、江戸期では東海道名所記や漢詩選も。近代日本の文明批評にも触れている。

   『富士山-聖と美の山』(上垣外憲一著、中公新書)は外国人と富士山との出会いに触れる。『なぜ富士山は世界遺産になったのか』(小田全宏著、PHP研究所)は登録推進運動の経緯を。世界遺産をとりまく問題や富士山のゴミ事情などを知るには、日経は扱っていないが、『「世界遺産」の真実』(佐滝剛弘著、祥伝社新書)が参考になりそうだ。副題は「過剰な期待、大いなる誤解」

   ほかには『岩手は今日も釣り日和』(村田久著、小学館)が読売新聞に。釣りエッセーに定評のある著者が季節や川、その周辺までを観察し、自然なタッチで語る。「天気図の見方なども含め、臨場感に溢れている」と評者のカキ養殖業、畠山重篤さんお薦めだ。

(ジャーナリスト 高橋俊一)

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