関東大震災後の人々のとんでもない振る舞いや生きざまを独自のセンスで切りとった反骨のジャーナリスト、宮武外骨の取材記録が『震災画報』(ちくま学芸文庫)としてまとまった。街の惨状を描いたルポとはちょっと違う。勇気と感動の物語でもない。政治家や学者の不毛な論争とも遠い。そこにあるのは、焼け跡にうごめく人間のしたたかさ、たくしいばかりの生命力だ。あれから90年、阪神淡路や東日本大震災を経てもまだ復興の遅れや混乱が指摘され続ける現状に、外骨流の生臭さが刺激的だ。関東大震災の1日付読書面に朝日と読売新聞がとり上げている。【2013年9月1日(日)の各紙からI】
権力を揶揄し続けた反骨のジャーナリスト
宮武外骨は明治から昭和にかけて活躍。今の企業ジャーナリストとはだいぶ違って、奇抜な表現と方法で権力を揶揄し、入獄、罰金、発禁などを繰り返した。帝国憲法のパロディを雑誌に載せて不敬罪に問われたこともある。「滑稽新聞」「筆禍史」「猥褻研究会雑誌」「赤」「変態知識」などの新聞・雑誌・書籍を発行。晩年は東大法学部内に明治新聞雑誌文庫を創設、保存につとめた。
関東大震災後の9月下旬から翌年1月までの6冊から合本したのが、この『震災画報』。尋ね人の貼り紙数百枚で埋まった上野の西郷隆盛像、親を亡くした「良家の処女」に扮して客を引く娼婦、避難先の寺で卒塔婆を屋根にした不届き者。「丸焼屋」の屋号で再開した飲食店、朝鮮人暴動説から虐殺に手を染める自警団にも触れていく。一方で貧富平等の無差別生活も。
非日常に復興の大きな原動力が
復興に対する政府の無能ぶりも激しく糾弾しながら、外骨の眼は市井の人々に注がれていた。「震災という非日常が、ここにある」と、読売の「鵜」1文字の評者。「人間の猥雑な生命力こそ、実は復興の大きな原動力なのではないか」と、朝日の評者・政治思想史研究家の尾原宏之さんは語っている。
ほかには、『サンダルで歩いたアフリカ大陸』(高尾具成著、岩波書店)がおもしろい。10カ国に足を運んだ毎日新聞記者のルポ。サッカーW杯をめぐる熱気と混乱があれば、内戦やテロに翻弄される少年兵もいる。さまざまな実像を、現地で交わした言葉や接した人々の行動を通して生き生きと伝える。こちらは現代のジャーナリストによる記録だ。
著者は今、大震災の被災地・釜石に赴任中という。人々の喜怒哀楽を取材し続ける。「そこにアフリカも日本も違いはない」と、朝日読書面で小野正嗣さんが評価している。
(ジャーナリスト 高橋俊一)
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