霞ヶ関官僚が読む本
混合診療、なぜ全面解禁できないのか 懸念される「お金」による医療格差

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増える高額な医療技術、どう折り合いを付けていくか

   それでも、小泉政権以降の議論の中で、徐々に規制緩和が進んでいる。最大の理由が「海外に比べ新しい医薬品の導入に時間がかかるため、重い保険外負担を強いられている」問題、すなわちドラッグラグ問題である。

   がんの患者団体代表の発言が引用されている。「目の前に効くかもしれないという未承認薬があった場合、患者としてはそれは当然使いたいわけです。世界で使われているということはエビデンスもあるわけですね。(略)しかし、日本だけです。これは使えないんです。使いづらい。これまで、保険が効いていたレントゲンとか、血液検査、薬、これがすべて自費になるんです。それプラス、輸入薬の代金が発生します」

   混合診療の賛成意見には、大きく二つの流れがある。一方は、一刻も早く、未承認でも新しい医療を受けたいという患者さん達の切実な願い、他方は、公的医療費を抑制する代わりに産業としての医療を伸ばしたいという考え方である。両者は、混合診療の容認という点で共通するが、その後の対応はまったく異なる。前者は一刻も早い保険適用を望むのに対し、後者は保険の対象とすることには消極的である。

   これまでのところ、実際の運用は前者の立場から行われてきており、保険適用となる新規技術数は、従前と比べ、ぐっと増えている。

   しかし、著者が懸念するように、医療保険財政の厳しさが増す中で、今後とも、こうした方針を堅持できるかどうかだ。

   本書では、がん治療の一種である「粒子線治療」の保険適用問題を取り上げる。現在は混合診療扱いとなっているため、粒子線治療それ自体は自己負担(約300万円)となる。高級車が買える値段である。

   過去1年間にこの診療を受けた者は約2400人。この裏には、約300万円もの費用負担に躊躇し断念した人もいるであろう。

   仮に、この粒子線治療について保険を適用した場合、自己負担は大幅に圧縮される。一挙に診療を希望する者は増えるであろうし、保険がカバーする医療費も大きく増加する。今後、再生医療など高コストの医療技術の増加が見込まれるが、保険導入を進めていけば保険財政を圧迫する一方で、混合診療のままにしておくと、負担能力のある者しか受けられないおそれがある。

   難しい判断だ。生命に関わる問題となると、簡単に線引きはできない。やはり、治療の内容や有効性、他の選択肢の有無、患者の負担能力など、いろいろな事情を考え合わせながら、一つひとつ答えを出していくしかないのではないか。「国民皆保険」の基本に関わるだけに悩ましい問題である。

厚生労働省(課長級)JOJO

【霞ヶ関官僚が読む本】 現役の霞ヶ関官僚幹部らが交代で、「本や資料をどう読むか」、「読書を仕事にどう生かすのか」などを綴るひと味変わった書評コラムです。

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