霞ヶ関官僚が読む本
カント、サルトル、バロン・サツマ… その臨終にみる人間の「喜劇」と「悲劇」

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思うように生きる以上に、思うように死ぬことは難しい

   思うように生きる以上に、思うように死ぬことは難しい。上に紹介したサルトルの臨終の項の末尾に、風太郎は、サルトルの言葉を紹介している。「絞首台でとりみださないようにあらゆる配慮をめぐらしているのに、スペイン風邪でぽっくりやられる死刑囚、それがわれわれだ」。さすがサルトル、自分の臨終を見通しているかのような指摘である。カントにしても死ぬときはその偉大な英知とは程遠い状態であった。

   一方で、戦前日本の女性を「からゆきさん」として売り飛ばしまくった村岡伊平治には天罰も下らず、大往生を遂げた。人生に不公平や不条理はつきものであり、臨終においてもまた然りということなのだろう。私のような凡人は、本書からの教訓として、風太郎の警句「地上最大の当然事……他人の死。地上最大の意外事……自身の死」をしっかりと腹におさめることにしよう。もっとも、風太郎の言う「人間の死ぬ記録を寝転んで読む人間」のおさめる教訓なのだから、所詮大して役にも立たないだろうが。

経済官庁(Ⅰ種職員)山科翠

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