戊辰戦争と第2次世界大戦を通じて
一方で、この大河ドラマでは全くよい所がなかった最後の将軍徳川慶喜の孤軍奮闘ぶりを描いたのが、練達の文芸評論家野口武彦著『慶喜のカリスマ』(講談社 2013年)だ。「あとがき」で、司馬遼太郎氏が作り出した日本における「明治維新ごっこ」の悪影響を憂い、現役世代の日本人は、歴史を学ばず、安易に大河ドラマで代替していると苦言を呈する。
今月は、日本では古来より死者と向き合うときだ。会津に関わる直近2つの戦争(戊辰戦争と第2次世界大戦)を通じて、近代における、戦争での死者への生者の受け止めを考察したのが、田中悟著『会津という神話―<二つの戦後>をめぐる<死者の政治学>-』(ミネルヴァ書房 2010年)だ。われわれは、すべての死者と向き合うことができるのか、どこまでの死者と向き合えるのか、という重い問題がテーマだ。この本ではなぜか論じられていないが、1997年夏に刊行され、大論争を生んだのが、加藤典洋著『敗戦後論』(講談社、ちくま文庫2005年)だ。「日本の三百万の死者を悼むことを先に置いて、その哀悼をつうじてアジアの二千万の死者の哀悼、死者への謝罪にいたる道は可能か」という問いかけは、氏自体の思想のその後の変遷にかかわらず、今もわれわれの前に依然としてある。
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