夏休みシーズンということで、大人も子どもも楽しめる読書を意識しての記事が各紙に載り始めた。『ぼくは「しんかい6500」のパイロット』(吉梅剛著、こぶし書房)を東京新聞が。潜航319回のプロが語る体験談。ロマンと勇気のチャレンジ物語もおもしろいが、深海にマネキンの首やビニール袋などが捨てられている事実にもびっくり。出くわした驚異は、珍しい生き物や機材のトラブルだけではなかった。さまざまな「新発見」にあふれる、フレッシュな一冊だ。【2013年8月4日(日)の各紙からII】
神秘的魅力と皮肉すぎるゴミ
著者は海洋研究開発機構(JAMSTEC)「しんかい6500」チームの潜航長。探査にかけるクルーの情熱やプロの深海パイロットに成長してゆくまでの自らの足跡もつづった。
水深2000メートルで、同船したドイツ人研究者は「海は生き物のスープだな。この小さなプランクトンやたくさんの生物がまざった、生きもののスープなんだ」と感嘆したという。その海の尽きせぬ魅力や神秘も、貴重なカラー写真とともにたっぷりと盛られている。
水深6500メートルに潜るには二時間半かかり、海底にいられるのは約三時間。調査と記録に追われるスタッフの実情。それでも生物、海流、レアアースと探査や研究すべき課題は、果てしなく多い。評者はノンフィクション作家の澤宮優さん。
一方で、日本海溝にはマネキン人形が沈み、ビニール袋も。袋は船のプロペラ軸に巻きつき、運航を妨げることもある。海底も地上と変わらずゴミに悩むとは、なんとも皮肉。他の本や論文でも指摘されているが、海底ゴミの研究はまだ進まず、生物への影響もほとんどわかっていないらしい。とんでもない世界が海の底にある。
関連本として東京新聞は『微生物ハンター、深海を行く』(高井研著、イースト・プレス)を薦める。ほか、類書に『深海のパイロット』 (藤崎慎吾ら著、光文社新書)がある。