霞ヶ関官僚が読む本
今に通じる「組織の人間関係論」 旧日本軍にみる「上司と部下」とは

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登場人物は、我々の身の回りにいるごく普通の人間

   一例を挙げると、満州事変の石原莞爾。智謀に優れていても、組織内の根回しは苦手。満州事変勃発時、関東軍出動に首を縦に振らない軍司令官に「もうやめた」とすぐにさじを投げる。そのままなら満州国はなかったかもしれないが、粘り強さと胆力に富む板垣征四郎が石原の上司。夜中3時までかけた粘り腰で司令官を説得してしまう。「智謀」の石原が注目されがちだが、抜群の実行力を持つ「胆力」の板垣なしでは絵に描いた餅に終わっていただろう。満州事変は、まさに両者の合作であった。

   その石原も、己を恃み過ぎる傲岸不遜振りが災いし、真面目な能吏タイプの東条英機に嫌われ閑職に回されると、組織内では無力化した。頭は抜群に切れるが組織内の調和には無頓着で、秩序を重んじる上司に嫌われて不遇をかこつ。包容力ある上司の下でないと力が発揮できないタイプ。我々の周りにもいそうではないか。

   他方、板垣は、大将に昇り陸相を務めるなど栄進したが、「大山」的な己を虚しくすることに長けていた反面、無謀な部下の言うがままに動くロボットと化し、戦後はA級戦犯として絞首刑となった。うるさいことを言わず仕えやすいが、部下に恵まれない場合は、「統御」に力点を置き、自らの理念・方針で「指揮」することに乏しい「薩摩型将帥」の悪しき面が現れ、事態の悪化を拱手傍観し責任だけを負わされかねないタイプだ。

   他の例も、舞台は歴史の一場面だが、登場人物は、我々の身の回りにいるごく普通の人間だ。組織における個人・コンビの役割に思いを馳せながら、自分や身近な人をその身に置き換えて、その状況下でどのように振る舞えるのかを考えて読んでみるのも面白いと思う。

総務省(課長級)H3Y

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