霞ヶ関官僚が読む本
今に通じる「組織の人間関係論」 旧日本軍にみる「上司と部下」とは

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   組織に属し部下ができれば、マネジメント能力やリーダーシップが問われ始める。その中身は洋の東西や組織の風土等により異なるが、旧日本軍の「統帥」は、江戸期以来の武家の伝統を引き継ぐ面もあり、日本型組織の原型を想起させて興味深い。

   旧日本軍の「統帥」の要諦は、「指揮官は大方針を示し実務は有能な部下に任せる。指揮官は君徳を積みその威望で部下を心服させる」ということに尽きる。リーダーシップを「統御」と「指揮」に分けると、「統御」に力点が置かれているのが特徴だ。

「将たる者は下の者にテゲ(大概)にいっておく」

『指揮官と参謀-コンビの研究』
『指揮官と参謀-コンビの研究』

   これは、「将たる者は下の者にテゲ(大概)にいっておく」との旧藩時代からの伝統を持つ「薩摩型将帥」の在り方で、日露戦争の満州軍総司令官大山巌を典型とした。大山は己を虚しくし、長州出身の英才児玉源太郎にその才幹を遺憾なく発揮させ、奉天会戦までの陸戦を勝利に導いた。これ以来、この「大山・児玉」のコンビ・スタイルが、旧軍の組織運営上のロールモデルであったことは人口に膾炙して久しい。

   その時代を下った不肖の息子が悪名高い「幕僚統帥」であり、無謀を勇敢と履き違えた参謀とその認容を「統御」と曲解する将軍連に焦点を当て昭和初期の旧軍を批判する書物は多い。これに同調し批判することは容易いが、当時の切所の意思決定を見ると、その人間関係や力学は現在とさして変わらないことに気が付かされる。

   今回紹介する『指揮官と参謀-コンビの研究』(半藤一利、文春文庫)は、満州事変以降の十五年戦争を題材に、旧軍における上司・部下等のコンビが果たした役割に着目した組織論だ。特定の場面では歴史を動かし、別場面では無力になる人間模様には、組織における個人の重みや限界を改めて考えさせられる。

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