【書評ウォッチ】開国後の明治日本を旅した欧米人 残された記録から浮かび上がる近代

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   人類とは旅する動物である、という一面がたしかにある。今では生活の一端にすっかり定着した旅行のその昔、それも開国後の明治日本を歩き回った先駆者たちの姿を記録した『グローブトロッター』(中野明著、朝日新聞出版)が日経と東京新聞に載った。おもしろいのは、さまざまな形態や体験の原型がそこにあること。現在の海外旅行にどこか通じる話もちりばめられている。【2013年7月14日(日)の各紙からII】

添乗員、オプショナルツアー、バックパッカーも

『グローブトロッター』(中野明著、朝日新聞出版)
『グローブトロッター』(中野明著、朝日新聞出版)

   グローブトロッターとは「世界漫遊家」と訳せる。言葉自体はもともと英国生まれのトラベルケースで、ハンドメイドの高級品が知られ、社名や商品の一般名称にもなっている。本ではそのケースを抱えて欧米から開国間もない日本に勇躍やって来た人たちをさす。

   19世紀後半だから誰もが旅できるわけではない。主役は一部の金持ちや好事家、冒険家たちだ。彼らが書き残した記録から、個性と好奇心がいっぱいの旅行事情と近代ニッポンの姿が浮かんでくる。

   英国人実業家トーマス・クックは、220日間世界一周ツアーを企画して自分も同行した。添乗員の走りだ。一行はクックを含めて10人、旅行期間は約6カ月。旅先でのオプショナルツアーまで設定されていた。彼らは横浜に寄港、人力車を連ねての江戸見物をしたという。地名はもう東京にかわっていたはずだが、クックの著作にはなぜか「江戸」と記されている。

   一方、本国高官の紹介状持参で大使や領事に接待され、護衛つきで行楽に出かけた旅行者も。明治天皇に接見した大富豪もいれば、20キロやせながら厳冬の中山道を踏破した学者も。宿代や荷馬代を値切ってノミに悩まされた医師はパックパッカーに通じそうだ。

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