【書評ウォッチ】風刺漫画に激論、モダニズム 選挙ポスターも昔はすごかった

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   街角に参院選のポスターが目立ち始めた。大半は型どおり、候補者たちがほほ笑む定番写真に、掛け声程度の言葉が少し。昔はちがった、風刺漫画や対立陣営との激論も盛られたことを『第一回普選と選挙ポスター』(玉井清著、慶応義塾大学出版会)が教えてくれる。デザインだってモダニズム。選挙戦の夏にあわせてか、朝日と読売両紙がそろって扱っている。【2013年7月7日(日)の各紙からI】

楽しめるデザインのバラエティー

昭和3年(1928)のポスターやビラを研究
昭和3年(1928)のポスターやビラを研究

   本は慶応義塾図書館で発見された昭和3年(1928)のポスターやビラを研究した。初めての男子普通選挙。2大政党が風刺漫画も用いて互いを「大道の邪魔もの」「私利党略」と攻撃しあった迫力を伝える。

   中には親切に投票の仕方を説明したポスターも。昭和モダニズムに彩られたデザインは、バラエティー豊かだ。初めて政治が視覚化された歴史をも示している。「カラーのポスター図案が楽しい」と、朝日新聞評者の出久根達郎さん。読売では「見ていて楽しいし、どうにか普通選挙を盛り上げようという意欲が感じられる」と評者の政治学者・宇野重規さんがうなずく。

   選挙は本来、政策論争が基本のはずだ。今はひたすら名前連呼の宣伝カーとわざとらしい微笑ばかりのポスター貼りまくり。「重要な選挙」だと新聞やNHKがいくら叫んでも、しらけ・うんざりムードがつきまとうのは、そのへんが大きな原因かもしれない。ネット選挙もようやく解禁になった。なのに、街の風景は相変わらず。退屈極まりないポスターを変えてみようという動きはないものか。

抵抗勢力や既得権益を乗り越えて

   あと一点つけ加えれば、この本の値段。6600円は高すぎる。研究書だからしかたないというのでは、普通の市民は買わなくていいとでも? 大学名をかぶる出版元も著者も、もう少し努力を。

   ほかには『自治体のエネルギー戦略』(大野輝之著、岩波新書)が日経に。環境政策では、国よりも進んだ自治体がある。東京都もその一つで、CO2温暖化ガスの総量規制と排出権取引で及び腰の国や、中央官僚とそのOBの反対をどう乗り越えたかを解説した一冊だ。

   このところ盛り上がらない温暖化論議だが、自治体の可能性を都庁の担当者が語った。問題は「エネルギー消費型都市から転換」を、保守的な抵抗勢力や根強い既得権益をおしのけてどこまで進められるかだろう。

(ジャーナリスト 高橋俊一)

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