アベノミクスがうまくいくだけでは、どうにもならない
なぜ、対応が進まないのか。小黒氏は、「はじめに」において、「人はだれしも行動や思いに不一致があると、みずからの心の中に不協和が生まれる」が、「そのような不協和は人にとって不快であるため、それを低減または解消しようとする心理作用が働く」とする社会心理学における「認知的不協和」の理論を紹介し、それが背景にあるのではないかとしている。カエサルが喝破した「人間はみずからが望むことを喜んで信じる」をひく。
経済学は、人生の中で、楽しくない、いやなことを予測する学問のため、陰鬱な科学(dismal science)と呼ばれている。小黒准教授は、「認知的不協和」を脱するために、その経済学の標準的な理論枠組み・手法を駆使して、日本の経済・財政の現状をあらためて浮き彫りにした。アベノミクスがうまくいくだけではどうにもならないという重い現実を直視すべきと主張する。『国債の歴史~金利に凝縮された過去と未来』(富田俊基著 2006年 東洋経済新報社)は、国債に関し我田引水の話が多い中、歴史的な視野を正確に得られる貴重な労作だ。
経済官庁B(課長級 出向中)AK
J-CASTニュースの書籍サイト「BOOKウォッチ」でも記事を公開中。