文明観に裏打ちされた軽やかな批評精神
漱石の文明論は、一言で言ってしまえば、「西洋の開化(すなわち一般の開化)は内発的であって、日本の現代の開化は外発的である」(『漱石文明論集』岩波文庫)としたものであり、日露戦争の戦勝に沸く日本の国民世論に対して非常に冷ややかに見受けられる。これは、日本社会がよってきたる歴史や西洋文明の発展の本質を鋭く見つめ、冷静に分析する目を持ち、それを軽妙洒脱に論じうる軽やかな精神を持っていたからに他ならないからではないか。
ここまで考えると「吾輩は猫である」は単に面白いのみならず、現代の日本社会のあり方についても反省する契機となるのではないか。日本社会の行く末に思いをはせ、そのため今できることは何かを考えるに当たって、漱石のような文明観に裏打ちされた軽やかな批評精神を持つことは、少なくとも自らの行為の持つ意味を反芻させることができるのではないだろうか。漱石の示した軽やかな精神や鋭い文明観、社会を見つめる冷静な目を見習いたいと思う。
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