チャーチルを震撼させた「最強」日本軍 米の海軍史家が描く「日本が勝っていた180日」

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   英国首相チャーチルは、その知らせを電話で聞いた直後、部屋のベッドの上で恐怖に身もだえした。シンガポールに派遣していた「イギリスのもっとも優秀で名高い」2隻の軍艦、戦艦プリンス・オブ・ウェールズと巡洋戦艦レパルスが、日本軍爆撃機により沈められたのだ。自ら後に書いたところによると、「この知らせの恐ろしさが完全に心に染みこんできた……。この広大な海域全体で日本は最強であり、(略)」――

   アメリカの海軍史家、イアン・トール氏が最新論文や文献、回顧録などを駆使してまとめた歴史ノンフィクション『太平洋の試練 真珠湾からミッドウェイまで』(上・下、文藝春秋)は、ウォール・ストリート・ジャーナルが「われわれが負け犬だったとき」との刺激的な見出しを掲げて紹介した(2011年)話題作の邦訳だ。日本が戦争に勝っていた(米国が負けていた)180日間を描いている。

真珠湾からミッドウェイまで

『太平洋の試練 真珠湾からミッドウェイまで』(上)
『太平洋の試練 真珠湾からミッドウェイまで』(上)

   本書の特長のひとつは、史料や証言に基づいて再現された数々の場面の臨場感にある。

   「スカーレット19、約五海里で敵爆撃機三を攻撃する」「タリー・ホー!」――当時、米軍パイロットは敵機を発見するとこう叫んだ――こんな戦闘機管制筆記録も引用しながら、日米両軍が激突した海戦をリアルに再現する。戦闘シーンだけでなく、山本五十六・連合艦隊司令長官の幕僚らとの何気ない会話の様子なども描かれている。

   思わず映像が頭に浮かんできそうなほど詳細に描写されており、読者によっては、自分が「海戦」のときの司令官や艦長になった気分で、「自分ならこの時どう決断するか」と思い描きながら読み進める人もいるかもしれない。軍事面が軸ではあるが、日米の政治文化状況も交え、立体的にまとめている。

   「日本人の読者としては自尊心をくすぐられることこのうえない」(訳者・村上和久氏)描写もある冒頭部分から始まるストーリーは、やがてミッドウェイ海戦(1942年6月)の日本敗北へとつながっていく。その敗因は、「人」の問題か組織的欠陥か、それとも「思想」だったのか――

   著者のイアン・トール氏は子どもの頃、東京で5年間暮らしたこともある。本書は3部作の1作目で、近くミッドウェイ海戦後からマリアナ沖海戦(1944年6月)までを扱う第2作を刊行予定。

   本書は2013年6月14日、発売される。上下各1680円。

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