実態と世間のイメージが食い違うことはよくある。『起業家』(藤田晋著、幻冬舎)は、そう思わせる本だ。ネットバブルにのった青年社長といえば、かつてのホリエモンに代表される派手な振る舞いのヒルズ族。でも、ここに登場するのは「きわめて真っ当な人物像」と読売新聞の読書面にある。ベンチャー企業を軌道に載せるまでの悩みや試行錯誤。これまでの事業家と同じではないか。その思いや偏見との苦闘を赤裸々に告白した内容が、読ませる。【2013年5月26日(日)の各紙からI】
「孤独なマラソン」にはタフな精神が必要
著者は今やアメーバブログで有名なIT企業、サイバーエージェントの設立者。2年後の2000年に史上最年少の社長(当時)として26歳で東証マザーズに上場を果たした。
ネットバブル崩壊、業界の低迷、再びのネットバブル。その中でライブドア事件と友人・堀江貴文氏の逮捕。安定しない事業。焦り。それらの中で社長ポストをかけて未知の領域に挑んできたという。そこで著者は何を考えたか。
「ゴールがあるのかどうかも分からないまま走り続ける、孤独なマラソンのようでした」「ゼロからベンチャー企業を立ち上げていくと、世間の反感を買ったり、既得権益を受けている人から邪魔扱いされたりします」「強靭でタフな精神が必要です」と、著者は吐露している。新奇なものではない。出光、松下、井深といった先達経営者たちだって同じだったのではと想像させる。
読売の評者・経済学者の中島隆信さんが注目するのは、著者が会社設立5年目にして、ネット企業では当たり前だった実力主義・即戦力採用の人事を自社育成・長期雇用へと切り替えた点だ。「時間を金で買うための企業買収はやらない」宣言も。浮かび上がるのは、なんとも堅実な経営スタイル。若者の生き方を考えるうえでも、一読の価値はある。