お世辞でも「本の虫」とは言えず、高度成長期に育ったせいか、どちらかといえばテレビ好き、それもニュース・報道に限らずドキュメンタリーからバラエティまでこよなく愛する私にとって、えらそうに書評を出す資格などない。それでも霞ヶ関にはいろんな価値観の持ち主がいて、読書嫌いな奴もいるんだと、一人でもホッと胸をなで下ろしてくれる方がいれば、との軽い気持ちで引き受けた。
ジャマイカからの移民二世にしてニューヨークのストリートキッド、学業成績は振わず何度も挫折、その後奇跡的に陸軍に入隊するも、すさまじい人種差別に遭遇。その怒りを抑えるため自分に言い聞かせた言葉を綴った自伝が『マイ・アメリカン・ジャーニー』。リーダー指南書やビジネス書は巷にあふれるが、あるIT企業のトップから読んでみたらいいと薦められて手にした一冊が、『リーダーを目指す人の心得』。いずれも著者は、ペプシ工場の清掃夫から、黒人として初めて、史上最年少の米軍統合参謀本部議長となり、国務長官にまで上り詰めた立志伝中の男、コリン・パウエルだ。
「戦争嫌いな戦士」としての素顔も
ベトナム戦争に2度にわたって従軍し、湾岸戦争の英雄と賞賛される一方で、武力攻撃へは最後まで慎重姿勢を崩さない「戦争嫌いな戦士」としての意外な素顔も垣間見える。自己主張の強いアメリカ人の中にあって、これほど謙虚なリーダーを見たことがない。ところが、イラクのフセイン政権が大量破壊兵器を保有していると国連で演説(後から真っ赤なウソだったことが判明)し世論を戦争へ導いてしまったことが、今でも悔やんでも悔やみ切れない人生最大の汚点だと、温厚な氏にしては珍しく声を荒げて回想しているのが印象的だ。
彼が座右の銘としている「自戒13か条」は、軍隊という厳しい規律の中から生まれたリーダーとしての実践的な心得を表したものだが、実に平易な言葉で語られているせいか、妙に心を揺さぶられる。事実は小説よりも奇なり、を地でいく感じだ。世の中に虚勢を張る「ボス」はたくさんいるが、人を明るくポジティブにしてくれる謙虚な「リーダー」は数少ない。30年も役人生活を送っていれば、山谷を超える再現不能なドラマがいくつもある。手柄を独り占めにする上司もいれば、修羅場や挫折を何度か経験し、そのつど政策を思い通り遂行できない「くやしさ」をかみしめたものだ。