3・11大震災の関連本があふれる中で、異色の2冊が出た。『福島原発と被曝労働』(石丸小四郎ら著、明石書房)は、震災前から実は続いていた放射能労働の実態を告発。『漁業と震災』(濱田武士著、みすず書房)は長引く漁業の危機から復興事業の問題をついた。ともに3・11はるか以前からの経緯を見すえた根っこの深さ。震災後に初めて被災地を踏んだライターとは違う。それぞれ毎日新聞、東京新聞の読書面が扱っている。【2013年5月12日(日)の各紙からII】
被曝労働は事故のずっと前から
被曝労働は、福島第一原発事故の20年以上前からすでにあった。地元の原発反対同盟代表と支援の元高校教諭、衛生研究所の元研究員、内科医という4人の共著だ。
原発労働者200人を調査すると、低賃金や被曝線量を低く見せる工作など、事故の前から行われてきた実情が浮かぶ。少なくとも1980年代半ばまで、被曝線量が全国で飛びぬけて高かったのが福島原発の下請け労働者だという。なのに、労災認定はわずか。その深刻な事実を、著者らはしっかり記録した。
今後も続く原発対策には放射能と隣り合わせの作業がまだまだ必要だ。本は危険すぎる現場で働く人たちの健康を守るにはどうしたらいいのかを考えさせる。著者らが求める労災認定の拡大や「健康管理手帳」の交付といった救済だけではなく、労賃のピンはねや被曝隠しを防ぐ態勢の確立、下請け構造の改善を急がなければならない。
漁業経済学者が「ぎりぎりの一線上」で
『漁業と震災』も、震災後の問題を論じるばかりではない。自然に溶け込んで続いてきた漁業の危機がまずあり、そこに大震災が起きたという位置づけだ。
東京海洋大准教授の著者が風評被害やメディアによる災害に触れ、復興策の一つとして持ち出された企業参画の「水産復興特区」論を惨事便乗型の「第二の人災」と批判する。たしかに、経済的側面だけでは海の暮らしや仕事は片づけられない。「漁業経済学者の側から、ぎりぎりの一線上で訴えている」と、評者・海洋民俗学の川島秀一さんが薦めている。
ほかには、『医療にたかるな』(村上智彦著、新潮新書)が読売新聞に。「薬剤師の分際で何を言うか! 医師になってからものを言え」と一喝され、憤慨して医師になったという著者を評者の経済学者・中島隆信さんが紹介している。
その後、夕張市の医療現場で5年間奮闘した医師の記録と見解。地域医療の最前線から「弱者のふりをする高齢者」「医療ミスをねつ造するマスコミ」を激しく批判する。「過激かつ愛に満ちた処方箋」と出版社サイトにあるように、ズバリともの申す本だ。
(ジャーナリスト 高橋俊一)
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