【書評ウォッチ】憲法改正、多数決で決められるか 政界・マスコミで論争の気配

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   5月3日は憲法記念日。いまいちピンとこない人もいそうだが、政界やマスコミの間に熱い論争の気配が漂い始めた。政権がかわってアベノミクスのあとは自主憲法制定を前面に掲げ、まずは改正手続きを定めた96条を変えようという動きが露わになりつつある。憲法の関連本を朝日新聞が読書面トップで正面からとりあげた。

   一方、読売新聞は読書面どころか、一面と見開きの特別面で戦争放棄の憲法9条を朝鮮半島有事のケーススタディにあてはめ、反撃も邦人救出もできないぞと猛アピール。なにやら風雲急。たかが大新聞同士のさやあてとおもしろがっては、こいつはいられそうにない。【2013年4月28日(日)の各紙からII】

人間よりも国家が主役?

『完訳 統治二論』(ジョン・ロック著、岩波書店)
『完訳 統治二論』(ジョン・ロック著、岩波書店)

   「多数決で決められないこと 憲法改正論」という見出しの書評を書いたのは、一橋大学の憲法学者・阪口正二郎さん。個人の自由を基本にした近代思想『完訳 統治二論』(ジョン・ロック著、岩波書店)を紹介して、自民党が昨年4月に発表した改憲草案を「国家が主役で国民は脇役」と批判。国家と人間の関係に、まじめな学者の危機感がにじむ。

   そのうえで、96条問題に。「選挙権や表現の自由など民主主義の前提条件まで多数決に委ねるのは矛盾」と、なかなか鋭い。ホメロスの『オデュッセイア』(岩波文庫)を引き合いに、多数決なら何をやってもいいという論理を示唆する魔女の誘惑から自身と部下を守るために体をマストに縛りつけたオデュッセイアの話には、考えさせられる。

   この読書面にもたまにある、通りいっぺんの書評を超えて、主張を伴った立派な論考。もちろん阪口さんの原稿だが、掲載した新聞が「あれは個人の私見で、わが紙は無関係」とは言えないはずだ。学者の手を借りるまでもなく、大いに論争したらいい。

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