現在我が国は、官民一体となって、アベノミクスによる日本経済再生に向けた取り組みを急ピッチで進めている。他方、ここ数年で2度の政権交代を経て、政官の位置づけが変わり、かつての政策の正当性が大きくゆらぐなど、価値観の変転と衝突が起こっている。
こうした中、一貫して職務に従事し続ける霞ヶ関の公務員にとって、何が「正しい」か自問自答する場面が増えている。
「利他的」と「利己的」
この点、『「正しい」とは何か?』(武田邦彦著 小学館 2013年3月)が一つの有益な示唆を与えている。ご自身の専門分野である原子力発電技術やエネルギー価格問題を切り口とし、「正しさ」には一度セットされたら簡単に変わらない「慣性」があると同時に、時代により「移ろう」ものもあると指摘する(その人が経験した時代、年齢などによっても正しさが変わる)。
また、周囲と調和しようとする「利他的な正しさ」を中心とする日本の徳目と、自己中心的な「利己的な正しさ」で理論武装してきたヨーロッパの倫理学という対比により、単なる「正しさ」の探求だけでは普遍的な価値を見いだせないことを明確にしている。こういう認識に立った上で、何かを決めるに当たり、「正しさ」を単純に衝突させるのではなく、他利的な視点を双方が尊重し、対立する両者の上位に立つ「仮の正しさ」を場面場面で適切に見出し、従うことにより、人間の関係性を再構築(認識)することの意義を強調している。