【書評ウォッチ】就活だけじゃない「コミュ力」偏重社会 価値観バラバラでも対話するには

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   就活シーズンだ。企業や学生の間でよく話題になる学生のコミュニケーション能力について、『わかりあえないことから』(平田オリザ著、講談社現代新書)がおもしろい。異なる価値観を持つ人に自分の主張を伝えられる能力とともに、従来どおり集団の輪を乱さない能力を併せもつ「コミュ力」が求められるらしい。社交性と協調性、そのどちらも。しかし、どちらかを選ぶとすれば、どうする?【2013年4月21日(日)の各紙からII】

「一人がいくつもの役割を」

『わかりあえないことから』(平田オリザ著、講談社現代新書)
『わかりあえないことから』(平田オリザ著、講談社現代新書)

   「日本社会はどんどんコミュ力偏重社会になりつつある」と、精神科医の斎藤環さんが朝日新聞で評している。社交性と協調性の「ダブルバインド」(二重拘束)が、学生ばかりか、誰にも多かれ少なかれ求められるという。

   これまで、日本ではどちらかというと「和を乱さず」の協調性を重視する雰囲気が支配的だった。企業にもそれは根強い。KYという言葉が若者を中心に一時期しきりに交わされたが、まさに「空気を読む」ことに今までは価値がよりおかれてきた。むしろ他者と向き合う「社交性」を、著者は独特に視点から強調する。

   バラバラな価値観をうまく調整する対話の重要性。一人の人間がいくつもの役割を演じる能力を発揮することで他者とつながっていけるという考え方だ。

   人の価値観がバラバラで「わかりあえない」ことを前提に、さあどうするかと問いかけている。演劇人の著者らしいコミュニケーション論に説得力が。空気を読み合う生ぬるさは、そこにはない。

中国の発展に待った?

   ほかには、『中国 二つの罠』(関志雄著、日本経済出版社)が日経に。香港出身のエコノミストが、発展に待ったをかけかねない課題をズバリ指摘。所得が世界の中レベルに達することで経済が停滞する可能性と、既得権益が改革を阻んで社会をゆがめる危険性だ。

   中国論がゴマンとあるなかで「気短に結論を急いで騒がしい最近の中国本と一線を画す好著」と、無署名の記事が薦めている。

   流通量の少ない専門書などを復刊する「書物復権」のニュースに毎日新聞読書面が触れている。都内出版社9社による共同企画。読者のインターネット投票などを参考に58点が復刊されるそうだ。

   『現代外交の分析』(坂野正高著、東京大学出版会)、『音楽と演奏』(ブルーノ・ワルター著、白水社)など。刊行は5月下旬から。

(ジャーナリスト 高橋俊一)

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