将棋のコンピューターソフトがプロ棋士に勝って話題になった。機械が人間の能力を上回った? 『機械との競争』(エリック・ブリニュルソンら著、日経BP社)は、今や人々の仕事をも奪いかねない機械にどう立ち向かうべきか、警告と対策の書だ。技術の進歩が所得格差を生む仕掛けも教えてくれる。経済危機を脱しても雇用が回復しないのはなぜかが、よくわかる。【2013年4月21日(日)の各紙からI】
将棋の電王戦だけでなく
朝は目覚まし時計に起こされ、昼はパソコンに向かい、夜はステレオに癒される。機械なしの生活はもう考えられない。そういう分かりやすい書き出しの解説を経済学者の中島隆信さんが読売新聞に。技術進歩の驚異と脅威に驚きながら「経済政策を立案するうえで多くの示唆を与えてくれる」というのだ。
将棋の第2回電王戦はPCソフト側の3勝1敗1分けだった。実は、チェスの世界では機械に人間が勝てないのはすでに周知の事実。同時通訳や病気の診断までも機械がこなしつつあることを、この本は指摘する。
著者は米国マサチューセッツ工科大の研究者2人。雇用が回復しない原因を、景気循環や新製品開発の停滞におく経済学者らに疑問を感じた。むしろモーレツな技術進歩の側面から「コンピューターに人間が負け始めているせいだ」と考えて、米国で2011年に自費出版したのがこの一冊だ。
賃金を抑え、格差を広げる
著者によると、機械の進歩で人間の仕事が「爆発的なスピードで」機械に置き換えられる。すると、機械を使いこなす高度な労働力は珍重され、機械でもできる単純労働は賃金が下がる。機械を持つ資本家と機械に押しまくられる労働者の格差は広がるばかり。
コンピューターはとくに中間管理職の仕事を奪うと、著者は警鐘を鳴らす。では、どうすればいいか。対策は?
機械は定期的な処理や反復作業には強いが、直感力や創造性は備わっていない。これを人間が活かして機械との共存をという。そうすると、やがて、今はない新しい仕事が生まれると著者は予想している。「警告」は的確な分析、「対策」にはやや不確定な部分がある。それでも、そうでもしなければ、機械にやられっぱなしになりそうな状態であることは、どうやら間違いない。「対策」をしっかり立てないと、また資本家だけがもうけるぞ。
(ジャーナリスト 高橋俊一)
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