伊吹留香
『反面教師』
OMCA‐1161 2800円(tax in)
4.24 on sale
オーマガトキ/コロムビア・マーケティング
一昨年(2011年)の夏に、伊吹留香をここで紹介させてもらった。まだメジャーデビュー以前のことだ。
その時に、それまでの彼女は生きることの「負の部分」を抱えていたこと、すでに多くの表現作品を世に送り出していること、そして結果としてその表現は「心に潜む痛みや嘆きを歌う」と書いた。
初メジャーアルバム
あれからおよそ1年9か月。伊吹留香の初メジャーアルバムが4月24日(2013年)にリリースされる。そこに立ち現れてくる彼女の姿は、1年9か月前とはかなり違っている。
鎧をまとい、内に籠り、自分を傷つけることで存在証明して見せるような在り方ではなく、自分を笑い飛ばしたり、人をおもしろがらせたりすることを楽しめる、伊吹留香がいるのだ。
「タイトルも、危機かつ転機が創り上げた、という意味を持たせた『Made in Crisis』という造語にしようと思っていた。曲は確かにそういう局面で生まれたものだけれど、なにかわかりにくいし伝わりにくい気がして。もっと一般的な言葉で、一見ネガティブに思える言葉でも、少し角度を変えると良い意味に受け取られるような言葉と思って『反面教師』に」
そして、ジャケットを見ても分かる通り、ビジュアルもすこぶる攻撃的だ。まるでバラ線に囲まれたように見える、顔に文字を大胆にかぶせたメインビジュアル。だが、隙間から覗く目にはサディスティックなほどに力があり、「綺麗な先生が好きです」と言いたくなるような、ある種のエロスも感じる。表裏一体の裏に潜む「汚れ」も知っているに違いない「綺麗な先生」。
「以前は、歌っていて孤独。私のことを人がわかるわけない、わかってたまるか。苦しい気持ちは苦しいまま、どれだけ忠実に表現できるかばかり考えていたけれど、いまはなるべく人に思いが伝わって欲しいと思うし、私の心持ち自体も変わった」
と、伊吹留香は言う。
人に届けるためならこれまでと違うことにもトライ
「いままでは気心の知れた仲間と音を作ってきたけれど、今回はプロデューサーに参加してもらった」
参加したのはジミ・ヘンドリックスのプロフェッショナル・トリビューターとして世界的に名高いJIMISEN。はじめは、自分とどこに接点があるのかもわからなかったという。
「でもやり始めたら、私では思いもつかないアプローチで新鮮だった。『George George』が王道のR&Rになったりして」
JIMISENらしく、ジャニス・ジョプリンへのオマージュのような音があったり、フリーのリフがストレートに飛び出してきたり、ブルースをベースにした1960年代後半のUK、USサウンドが随所に。それが、違和感がないどころか伊吹留香の血肉になって、まるで彼女のためにはじめから設えた音のよう。
「その当時の洋楽ロックってしっくりくる。同じように、私は昭和歌謡というか昭和の音楽の持っている哀愁に共鳴する。言葉が大事にされていた時代で、言葉のメロディーへの乗り方も綺麗」
60年代ロックと昭和歌謡
60年代のブルース・ベースのロックと、昭和歌謡には「型を大切にする美しさ」とでも言えるような、ある種の共通項がある。
「歌詞を書く時はいつも、朗読するだけでも気持ち良い、誰が聴いても気持ち良く感じてくれそうなリズムを心掛けている」
平成になってからの若者向けの音楽、歌からは消えた「言葉へのこだわり」が、このアルバムに収められた歌にはある。
「ロック創世記のブルージーな音と、昭和歌謡のエッセンスのようなものとが、うまくマッチしたと思う」
それだけでなく、伊吹留香の今度のアルバムが、気持ちよかったり美しかったりするのは、これまでの彼女が良しとしてきた裏側の負の部分とも向き合って、折り合いをつけてきたからこそなのだろう。
なんにせよ、伊吹留香という才能は、大輪の花を咲かせることになる。そのとっかかりが、この『反面教師』なのだ。
加藤普
【収録曲 反面教師】
1.Warm Up
2.George George
3.夜を行く性
4.惚れ込め詐欺
5.decade
6.EMPTY
7.それだけは確か
8.LAPDOG
9.晩冬
10.ヒートアイランド
11.@frustration
12.在りし日