「危機管理ガバナンスの再構築は政治の仕事」
本書のあまりに濃い内容を限られた字数で紹介する任に堪えるものではないが、本書には一気に読了せずにはいられないものがあるということは申し上げたい。それは、我々が日々深刻にあるいは漠然と感じていること、つまり国家的リスクに対して我が国があまりに脆いということを正面から論じているからであり、かつその想定や分析がリアリティと説得力に富むからであろう。
本書は、巻末の「おわりに」で、最悪のシナリオを起こさないための制度設計責任を政治に求め、特に危機管理ガバナンスの再構築は政治の仕事であると説いている。そして、ダボス会議の国際レジリエンス評価報告書を引いて、危機にあってもっとも重要な要素はリーダーシップ、つまりは政治家の統治能力であるとし、そして同報告書では日本の政治家の統治能力の評価が低いことを指摘する。さらに国民にも、「胸に手を当てて省察」すべきとして「危機に強いフォロアーシップ」を求めている。正鵠を射た勇気ある見解だと思う。
第1部のパンデミックの章に、医師が医師のモラルを批判する記者たちに「英語のクライシスの語源をご存知ですか」と問うシーンがある。誰も答えないのを見計らって彼は続ける。「クライシスの語源は、ギリシャ語で決断を意味する言葉です。危機は瞬時に決断できるかなんですよ」と。瞬時の決断のためには、決断のための仕組みと決断できる環境が整えられていなければならない。それが、上述の「危機管理ガバナンスの再構築」であり「危機に強いフォロアーシップ」なのだと思う。
経済官庁(I種職員)山科翠
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