マニアックなこだわりがブログで発信され、評判を呼んで本になる。そういう例が増えてきた。『日本ボロ宿紀行』(上明戸聡著、鉄人社)はその典型。全国の古宿や安宿を泊まり歩き、ビジネスホテルにはない個性的な旅館の宿泊体験と周辺の街を覗いた記録がおもしろい。
サラリーマンならよくある、出張ついでにちょっと見物。誰でもできそうな軽い楽しみを詰め込んだことがうけて、2冊目が出た。わかりやすい記述と写真を読売新聞が著者コーナーで紹介している。【2013年4月14日(日)の各紙からI】
出張のたびに、でも「ハズレはない」
著者は流通専門誌のライターとして各地に出張するたびに「自分なりに気に入った魅力ある宿」を探したそうだ。湯治場や花街の宿、商人宿、駅前や街道筋の旅館、重要文化財級の宿など歴史的価値のある古い宿から普通の安宿まで、全部をひっくるめ、愛情込めて「ボロ宿」とよぶ。
2年前に出した1冊目につづく『日本ボロ宿紀行2』には25の宿が登場。震災後の東北から北関東へ、さらに熱海から小田原で昭和レトロに触れる。信州では映画「犬神家の一族」に出演の女優坂口良子の足跡を訪ね、歴史に思いをはせながら西日本を旅する。
寝相が悪いと階段から転げ落ちそうな屋根裏部屋、テレビは白黒、肘を乗せると沈んでしまうテーブル……でも「ハズレと思ったことはない」と記者に答えている。「実際に泊まった結果、気に入ったところばかりです」と語る出版社サイトには心づくしの料理を写真に。周辺の街や名物もこまめに探索している。
どこか酸っぱい地方の現状
もともと、金ぴかの最新設備よりは苔むしたような味わいにひかれる方なのだろう。30代半ばにして古い宿が消えて駅前も変わったことに気づき、行脚を続けてきた。
4月6日付のブログ最新版は国東半島。中津市周辺を歩いた写真をいくつも載せているが、街に人影がほとんどない。懐かしさとともに、図らずも地方の現状を写し撮っているということか。どこか酸っぱい寂しさ、不思議な味わい。
『多摩川猫物語』(小西修著、角川書店)が毎日新聞に。「かわいい猫の写真集を期待したらショックを受けるだろう」と記事にある。身勝手な人間に捨てられ、飢えや病気にさらされながら懸命に生きる猫たちのたくましい姿を20年間、撮りためたという。都会の動物ドキュメンタリーだ。
(ジャーナリスト 高橋俊一)
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