異色の料理本が話題になっている。『石巻ボランティアハウスの橋本ごはん』(橋本信子、INJM著、セブン&アイ出版)だ。東日本大震災の被災者がボランティアたちのために、寄せ集めの食材から無償で作り続けたレシピの数々とそのストーリー。紹介のイベントが都内で開かれ、朝日新聞でも高く評価された。東北の味と心がみんなを元気にしている。【2013年3月31日(日)の各紙からI】
証言にレシピも加えて
話題の主、橋本信子さんは津波に襲われ、凍えるほど冷たい水に浸りながら死を覚悟の一晩を過ごして生きのびた。やがて日本中から、さらには世界各国からどっとやって来たボランティアたちに感謝をこめて食事をふるまったのが始まりだ。
調理設備は壊れ、材料は限られ、各地から寄せられた中には風変わりな食材も。それらを使い分けて田舎の家庭料理をベースにした、プロ顔負けのものを提供したというからすごい。続けるうちに「5000人のボランティアが絶賛」といわれるまでに評判となった。
牛タンシチュー、鶏肉ときゅうりのラー油漬け、仙台あぶら麩丼などなど。「おいしい」と思ったボランティアが作り方を習いながら手伝って、人と料理の輪がひろがった。
なぜ橋本さんは作り続けるのか、その料理がどうしてみんなを元気にするのか。橋本さんへのインタビューやボランティアの証言にレシピも加えて、この一冊ができあがった。
善意が生んだソウルフード
「料理を食べて人生が変わった」というボランティアの言葉が出版社サイトにある。「まるで家族が再生されていくようだ」と、朝日読書面で長沢美津子記者。いま「橋本ママ」とよばれる女性がボランティアの善意に善意でこたえたソウルフードだ。
『バルザックと19世紀パリの食卓』(アンカ・ミュルシュタイン著、白水社)が東京新聞に。フランスが美食の国として確立したころの文豪を中心に食を通して文学を見つめた。当時増え始めたレストランの会食、あでやかな女たちを交えた宴、つつましい食卓とそこで演じられる人間模様。
「女は少ししか食べない。女たちは食べることに悦びを感じるというより、食べ物や食事を利用して夫や恋人を操り、屈服させようとする」と、評者のフランス文学者・小倉孝誠さん。フロベールやゾラについても触れている。
(ジャーナリスト 高橋俊一)
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