「知の巨人」立花隆さんの頭の中はどうなっているのだろう。膨大な情報を駆使し、整理して分析する。その圧倒的な知力は、立花隆さんの頭脳のどこに潜んでいるのか。頭脳を覗き込めないなら、その外付けハードディスクに当たる蔵書にヒントがあるのではないか。そのノウハウを借用できないか。
中央公論社から2013年3月に出版された『立花隆の書棚』(3150円)を、そういうつもりで読んでみた。
「蔵書は10万から20万冊かな」
立花さんの執筆活動は、テーマに関する書籍が並らんだ書棚のそばに置いた机で進められる。資料も付近の床に積まれている。別のテーマに移ると、机が関連書籍の棚へ移動する。
蔵書の本拠地は東京・小石川に建てた地上3階、地下2階の通称猫ビル、事務所兼書庫である。本人は、蔵書は10万から20万冊かな、という。本は基本的に捨てないから、蔵書は増える一方。書庫は増え、仕事場は移動し続けた。
猫ビルを中心に、写真家の薈田(わいだ)純一さんが書棚をなめるように精密撮影した。650ページの本のうち3分の1弱が書棚の本を接写した写真ページである。立花さんは「あまり気持ちのいいものではない。自分の貧弱な頭の中を覗かれているような気がする」と言っている。
立花さんは書棚を移動しながら、棚の本について説明していく。これが本文である。実に面白く、興味津々である。なぜこの本を買ったか、その中でも面白いのはどの本で、どの部分かを抜き出して解説する。聞き書き原稿を徹底的に朱入れして、ほとんど書き直すくらいに推敲するのが立花流。雑談を聞いているような、分かり易い文章である。
これまでの著書のテーマ分の蔵書があるのだから、解説は多岐にわたる。キリスト教の土着性、聖処女マリアの実像などは、これだけで立花解説1冊になるくらいまとまっている。学生時代から取り組んでいた神秘主義について、原子力の見方、物理学、イスラム世界、共産党、と思えば、男のスケベについて、などなど、好奇心の広がりは果てしない。