貧富の格差は夫婦単位で見ると、いっそう拡大する。医師同士の夫妻を見ればわかるように、金持ちは金持ちと、低所得者は低所得者と、それぞれ結婚することが多いからだ。『夫婦格差社会』(橘木俊詔、迫田さやか著、中公新書)が、この実態を切りとった。名づければ「パワーカップル」と「ウィークカップル」。深刻なまでの所得差が、個人単位で見分けるよりもよくわかる。【2013年3月24日(日)の各紙からI】
妻が働くかどうかは夫の収入と無関係
これまでの議論は、個人単位でやられるのが普通だった。この本は、社会構成の基本形である夫婦の問題としてとらえた。「今後の日本社会のあるべき姿を考える上でも大いに勉強になる一冊」と、読売新聞で経済学者の中島隆信さんが評している。
夫の所得が多ければ妻は専業主婦となり、少なければ共働きをする。これは一昔前のパターン。今では、妻が働くかどうかは夫の収入と無関係なことが多い。「そうならば夫の所得が高くても妻が働く夫婦は、家計所得がとても高くなるだろう」と、本はいう。
男性医師の22.9%は女性医師と、女性医師の67.9%は男性医師と結婚するそうだ。「法曹夫婦」「研究者夫婦」「管理職夫婦」も。高学歴・高所得の「パワーカップル」だ。
一方に、その反対「夫の所得が低くても妻が働かない夫婦」もある。こうした妻の有業率は、本人の意思かどうかはわからないが、毎年下がる傾向らしい。「ウィークカップル」は中高卒の若年夫婦が典型的で、年間所得300万円未満の夫と200万円未満の妻というケースが約70%を占める。危うい社会現象の広がりを、本は指摘している。
つながりのなんとも切ない一面も
合計所得の最も高いグループと最も低いグループの差は、年間800万円を超すというから、格差は拍車がかかるばかりだ。
離婚の影響や「結婚できない人たち」、地域差も本は視野にいれる。「金の切れ目が縁の切れ目」か、結婚生活の維持も格差に左右されるのだろうか。格差が拡大する仕掛けと現状をひも解いていくと、人のつながりのなんとも切ない一面までが浮かび上がる。
『インターネットを探して』(アンドリュー・ブルーム著、早川書房)が日経に。一見ずれたタイトルだが、何か施設があるはずだと世界中を旅した記録だ。欧米を結ぶ光ファイバー、グーグルのデータセンターなど。「ネットも実は物理的な世界の中に埋め込まれたものであることを強く意識させられる」と評者の鈴木謙介さん。ネットは魔法でも理念でもない。中国で検閲が行われているというのも、だからできるのかとわかってくる。
(ジャーナリスト 高橋俊一)
J-CASTニュースの新書籍サイト「BOOKウォッチ」でも記事を公開中。