今回のアルバムの「肝」とは
そう、敢えてギターを外し、ピアノで音を構成することは、実は「ロックではない」と言われかねないほどの冒険なのだ。だから、敢えてギターを外すロックバンドは、ほとんどいない。だが、そこが、今回のアルバムの「肝」だとドラムの北川は言う。
北川「今回は原点回帰というか、もう一度ピアノロックという僕らの原点に立ち帰ってアルバム作りをしようと取り組んだ音。前作を作り終わって一息ついている時に、藤原(岬 Vo.)がもう一度サウンド面を見つめ直そう、ピアノロックに立ち帰ろう、原点回帰するために個々の演奏能力、バンドとしての表現力をもっと高めたいと言ってきた。だから、このアルバムを出すまでに多少時間がかかった。でも、非常にいい機会だった。ここが俺らの肝なんや、ど真ん中やと見つめ直せたし、挑戦することもできたと思う」
アカシアオルケスタの曲を1曲でも聴いたことがある人なら、メンバー個々の演奏の力量をよくご存知と思うが、とにかく一級品。
北川のドラムの温かなグルーブ感は、破壊的な印象と表裏一体だ。西村の一筋縄ではないピアノの浮遊感、佐野のベースの概念をぶち壊すほどのプレイは、まさに「変幻自在」で、聴く者を飽きさせない。まるで遊び倒しているようだが、「アカシアオルケスタの音」を壊すことはない。一方でオーソドックスな調べは美しい。
そして特筆すべきは「楽器の一つ」と、藤原岬自身が言い切るヴォーカルだ。
西村「うまい人はいっぱいいる、音程がいいとか声量があるとか。でもそういうことじゃない。曲に色や表情を与える歌い方、表現は、藤原岬ならでは」
ピアノの西村が言うように、藤原岬のヴォーカルは、さらに「変幻自在」。なにしろ、曲ごとに別人が歌っているかと思うほどだが、アカシアオルケスタ・サウンドは揺るぎなく、歌の説得力も消えない。一つ一つの曲のヴォーカルが、音の中で違和感なくしっくりと接着剤のようになって曲を作り上げている。
ベースの佐野は、こんなことを言った。
佐野「僕らは、唯一。音楽シーンにピアノバンドで、こんなことできるんだぞという挑戦状を叩きつけて、気付けの一発という感じの作品を残せたという実感がある。自分たちの軌跡を全て封じ込めた、最高傑作と思えるものができた」