「涙なくしては読めない」現場の奮闘
また本書は、英国の著名なサイエンスライターのジョン・エムズリーの「自分なりにリスクのものさしを持ち、あるラインまでは受容する覚悟を持つべし」との言葉を引き、「定性思考」から「定量思考」へという考えを提唱する。リスクのあるなしだけの定性分析から、定量的なデータを求めリスクを量るという、より高度な定量分析への転換だ。
よく官僚の「無謬性」が批判されるが、日本人のゼロリスクを求める「悪しき完全主義」がこれを助長していることは間違いない。定量的データに基づいて理性的・実践的な判断ができるようになるかどうかが、日本の将来の行く末にもかかわるように思う。そのためにも、人々のリスク認知を歪めないように、政府が信頼を回復できるのかが厳しく問われていることを痛感する。
田崎晴明著『やっかいな放射線と向き合って暮らしていくための基礎知識』(朝日出版社、2012年)、そして、名著『「核」論』の増補版、武田徹著『私たちはこうして「原発大国」を選んだ』(中公新書クラレ 2011年)は、「理性」のための必読本だ。『通貨烈烈』、『同盟漂流』などで著名なジャーナリストの船橋洋一氏の『メルトダウン・カウントダウン』(文藝春秋 2013年)は、周到な取材力・構成力で事故を描いた。今後原発事故の定番の本となるに違いない。日本政府のトップの、「理性」ではなく、生存「本能」だけが評価されているというのは全くもって残念な結論だ。
第2次大戦の無名の兵士たちの証言を丹念に取材してきた門田隆将氏の『死の淵を見た男 吉田昌郎と福島第一原発の五〇〇日』(PHP研究所 2012年)は、お粗末な支援体制の中で、郷土を守ろうと奮闘する現場を貴重な証言で描く。理性的であろうとしても、涙なくしては読めない傑作だ。
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