【書評ウォッチ】女性・高齢者の新雇用形態「制約社員」 安く使える労働力に成り果てないか

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   若者の雇用が問題になって随分たつ。いっこうに改善しないが、人材を戦力としてどう活用するかを企業サイドから考えた『正社員消滅時代の人事改革』(今野浩一郎著、日本経済新聞出版社)が、日経新聞に。正規・非正規の中でも働き方が分かれる時代に、日本の人事を検証したのだそうだ。「新しいモデル」を生み出す可能性も示唆したというが、企業管理者の考えがどこらへんにあるのかを知るヒントにはできる。そのうえで、そこで働く人は自分たちのために何が必要か、しっかり見きわめていただきたい。【2013年3月10日(日)の各紙からII】

「制約社員を活用する」とは?

『正社員消滅時代の人事改革』(今野浩一郎著、日本経済新聞出版社)
『正社員消滅時代の人事改革』(今野浩一郎著、日本経済新聞出版社)

   市場や財務、国や自治体の法制度、そして時代と働き方の変化。「数多くの変数を踏まえた上で」「企業戦略の重要課題」と、富士通総研の湯川抗さんの書評には、企業管理者しっかりせいと言いたそうな文言が並ぶ。本のタイトルは、正社員がいなくなる時代を宣言するのではなく、正規から非正規まで多様な社員を最大限活用する制度を提案する。

   女性、パート、高齢者など多種多様な社員を、本は「制約社員」と呼ぶ。何が制約なのかと考えると、社員本人よりは企業にとっての制約という色彩のネーミングらしい。この制約社員を基幹社員化し、基幹社員も高齢化などで制約社員化。両面から「新しいモデルを」とする提案だ。そういうスイッチがあれば、企業には都合がいいだろう。

   働き方が変わってきていることは間違いないが、それを当然のこととして受けとめ、さらに企業にとってどう活用するかを、著者も評者も熱心に論じている。「いや待てよ」という気がどうもしてしまう。この一方的な現在進行形に、なんの疑問も感じなくていいのか。

「働く人」に良いことがあったか

   雇用問題の関係では有名な文書がある。経団連が1995年にまとめた「新時代の『日本的経営』」だ。派遣社員や契約社員制度を提言した。その挙句が、非正規社員の増加だ。クビを切りやすい、安く使える労働力。新興国企業との競争激化で、コストカットの事情もあったかも知れない。だが、この制度がはびこって「働く人」に良いことがあったか?

   そういう検討など、著者も評者もこれっぽっちもやっていないようにお見うけする。企業の御用学者だからとは決していわないが、企業サイドに芽生え始めた発想として条件つきで読みこなす必要はある。本コラムの読者の皆さまはどうお考えだろうか。

   ほかでは、岩波科学ライブラリーが200冊を超えたことに、海部宣男さんが毎日新聞で触れている。とり上げたのは『シロアリ』(松浦健二著)と『サボり上手な動物たち』(佐藤克文、森坂匡通著)の2冊。珍しい生態をのぞき見るおもしろさは格別だ。

(ジャーナリスト 高橋俊一)

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