吉本隆明ファンが「猫好き」に嫉妬する本? 最晩年に語った愛猫の死・老いの境地……

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   吉本隆明ファンが、この本を手に取る「猫好き派」に嫉妬するかもしれない――「戦後思想界の巨人」吉本隆明氏の1周忌に寄せて、死去の3か月前に語った愛猫の死の話などをまとめた『フランシス子へ』(吉本隆明、講談社)が発売された。

   「猫派」ならその心をわしづかみにされそうな、しみじみとした猫への愛情が伝わってくる本でもある。「吉本隆明って誰?」という人でも気軽に読めそうだ。勿論、全編が猫の話という訳ではない。オールドファンをうならせる「老いの高み」をさらりと示す肉声・考察も散りばめられている。

ホトトギスは、本当に「実在」するか

『フランシス子へ』
『フランシス子へ』

   本書は、吉本氏宅に、前作『15歳の寺子屋 ひとり』(吉本隆明、講談社、2010年)の頃から通い続ける女性編集陣に語った、生きることや老い、病気、死そして「実在」についての考察をまとめた本だ。

   書名の「フランシス子」は、人生を通じて数十匹の猫を飼った吉本氏が、いちばん心に残ったという猫の名前。吉本氏は、「これといって特色のない猫」だが、相思相愛の仲だったと振り返り、その死について自らの老いに重ね合わせながら語る。「猫型人間と犬型人間」といったテーマも取り挙げる。

   「いい老人にはなれない」という吉本氏の語りは、「(和歌にも数々読まれてきた)ホトトギスは、本当に『実在』するか」という大疑問(?)にも及ぶ。「大真面目」に取り組んでいる「研究」だそうで、ホトトギスに限らず、「実在」について、「何を根拠に納得したらいいのか」と疑問を投げかける。何かが実在しているものとして、「うかうか」と話す学者らに対しては、「危なっかしいなあ、大丈夫かなあ」と感想をもらしている。

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