米国で存在感があるが日本では目立たない産業の典型が、ベンチャーキャピタル(VC)やプライベートエクイティファンド(PEF)ではなかろうか。かつての興銀はそうだったのかもしれないが、バブル崩壊後のメガバンクは産業振興のための冒険をあまりしていない気もする。かくして、我が国では官製ファンドの出番ということになる。
それも一つのやり方だが、官製ファンドでも雇われ民間ファンドマネージャーが目利きをすることになるので、やはり、民業そのものが隆々としてくることが将来的には望ましいのだろう。いずれにせよ、我が国の場合目利きのファンドマネージャーが不足しているのが実態ではなかろうか。では、本場の米国ではどんな人たちが活躍しているのだろうか。
語られた素直な本音
というわけで、米国のVCやPEFを経営する10人の体験談をまとめた本書『The Masters of Private Equity and Venture Capital』(ロバート・フィンケル、デビド・グレイシング、出版社McGraw Hill)を読んでみた。
例によって、アメリカ人というのは、意外に素直に本音を語るので、本書には、彼らが投資判断する際の基準、あるいは、投資効率を上げるテクニックのようなものが正直に書かれていて面白い。例えば、あるPEFがターゲットにするのは、キャッシュフローが安定的に期待できる非装置型産業(食品、葬祭業、ソフトウエア、広告、ヘルスケア産業等)である。
また、あるVCは、有望技術を発見すると周辺特許も幅広く押さえて独占的地位を確立しようとする。あるいは、投資回収リスクの判断に当たっては、減価償却の後年度負担を重視したり、景気変動や利益率低下などの複数リスク要因を組み合わせたシミュレーションを行ったりするなど、長年の経験に裏打ちされたマネジメント手法の一端が紹介されている。
産業の新陳代謝と創造的破壊の原動力
ほぼ全ての投資ファンドに共通するのが、投資先企業の経営陣の選定に関する並々ならぬエネルギーの投入である。VCはもちろんだが、PEFも友好的投資が基本である。その際、既存のマネジメントとの協調に加え、必要と判断すれば当該業界に精通した新たな経営者の投入によって、会社の経営効率を高める戦略がとられることになる。あるファンドの場合は、ターゲット業界の収益率を4分割し、トップランク業績の企業を軸に、第3ランク業績の企業を吸収合併させることで、全体の収益性を高めていく。そのような戦略を成功させるカギが投資先企業のトップマネジメントである。このアプローチは、停滞する我が国の内需型産業の構造改革のヒントにもなろう。
本書に出てくる10人のファンド経営者たちの平均年齢は65歳と比較的高齢である。ウォール街のハゲタカ系のプレイヤーとは異なり、シリコンバレーや地方都市を拠点に数十年に亘って実績を上げてきた彼らは、人情に厚く、倫理的とさえいえる人生哲学を持っている。彼らの多くが両親から学んだことをライフモットーとしており、それを臆面もなく語るところがいかにもアメリカ人らしい。「地に足の着いた金融資本主義」とでも言えばいいのか。彼らが米国産業の新陳代謝と創造的破壊の原動力の一部であることは疑いの余地がない。
経済官庁(審議官級)パディントン
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