『飛雄馬、インドの星になれ!』(古賀義章著、講談社)が読売新聞に。高度成長期の人気マンガ「巨人の星」のスポ根物語をリメイクした。ただし、日本のアニメ番組をただ持って行っただけで、簡単にヒットしたわけではない。文化も価値観も異なる国でテレビ放映にこぎつけるまでの、個性派プロデューサーの奮戦記。これ自体がドラマだ。【2013年3月3日(日)の各紙からII】
クリケットやチューブで代用
ご本人のホームページや講談社のサイトなどによると、著者は東京オリンピックの年・1964年佐賀県生まれ。明治大学卒後、講談社で週刊誌の編集者になった。「ワインから国際政治まで」という雑誌『クーリエ・ジャポン』の創刊にかかわり、編集長に。読売読書面では、写真家で作家の星野博美さんが「インドを放浪した著者は、いつかインドを相手に仕事をしたいという野望を持っていた」と紹介している。
しかし、問題は文化の違い。
野球を知るインド人は少ない。これはクリケットにおきかえた。
幼い主人公・飛雄馬が身につけて鍛えた大リーグボール養成ギプスは、インドでは「児童虐待」と見られて、代わりにチューブを巻きつけた。
有名なちゃぶ台返しのシーンはなし。「食物を粗末にする」と指摘されてしまった。売り込み交渉は激論になったという。
アニメは時代と国境を越える
アイデアと奇策を重ねて、2012年12月からリメイク版アニメがインドでスタート。本は第一話放送までの試行錯誤を記録した。
プロジェクトは一種の見切り発車だったらしいが、現代インドの雰囲気が日本の高度成長期と似ている追い風もあって、今では異文化交流の優等生扱いされるほどだ。「文化の違いを一つ一つ噛み砕き、置き換えていくその作業はスリリング」と評価する星野さんは、思いきりギトギトの日本流でもよかったのかもしれない」とチクリ、注文も忘れない。
アニメ制作に関しては、『世界の子供たちに夢を』(但馬オサム著、メディアックス)が日経新聞に小さく載った。「マッハGoGoGo」「ハクション大魔王」を生み出したタツノコプロの創始者、吉田竜夫さんの評伝だ。人気のタツノコアニメ誕生までを関係者の証言で描き出すドキュメンタリー。アニメは時代と国境を越えて、人の心をときめかす。
(ジャーナリスト 高橋俊一)
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