地球とは、知られる限り宇宙で唯一の「水の惑星」だ。地球にはなぜ海があり、水が溢れているのか。こういう壮大な問いを正面から論じる『海はどうしてできたのか』が2月(2013年)に講談社から刊行された。著者の藤岡換太郎氏は、世界最高水準の潜水能力をもつ「しんかい6500」への乗船回数51回で、海を知り尽くした男でもある。
本書では、海がそもそもどのようにしてできたのかという問いと共に、現在の海とはまったく違う猛毒の原始海洋が、どのようにして「母なる海」へと進化したのか、が解き明かされている。
猛毒物質含んでいた原始の海
誕生したばかりの地球は、想像を絶するような地獄絵図のような状態だった。隕石が雨あられのように降りそそぎ、その衝突で発する熱で、地球は内部までドロドロに溶けたマグマオーシャンだった。そこへ火星ほどの大きさの惑星が激突し、このとき地球の一部がもぎとられて月になったのだが、少しでも衝突の角度が違えば、地球はばらばらになっていたという。
そしてあるとき、現在では災害となるレベルの局地的集中豪雨に等しい降水量の雨が、なんと全地球に3年以上、あるいは6年にもわたって降りつづいたという。こうしてできあがった原始の海は、塩酸や一酸化炭素など猛毒物質を含むおそるべき海だった。
海、大気、陸、生命が連動して「共進化」
そしてその海は、大気や陸、そして生命とも連動した「共進化」というべき過程をへる。微生物のシアノバクテリアによる酸素の発生が、当時の生物にとって深刻な環境破壊だったこと、超大陸の形成と分裂が、海や大気、生物に大きな影響を与えていたことなど、地球スケールでの壮大な事件史を追っていくうちに、海、大気、陸、生命の4者がいかに密接に関わりあって、現在の地球を作り上げていったかが自然に理解されてくる。
その後、私たちにとっての「毒性」が消え、現在の穏やかな「塩からい海」になるのだが、最後に話は暗転する。なんと海が将来、なくなってしまう可能性があるというのだ。これは10億年後という気の遠くなる未来予測なのだが、そのメカニズムを見ると、かなり現実性が高いシナリオに感じられる。現在の科学がそれを放置していて良いものかという警鐘を鳴らして、本書は締めくくられている。
海を知ることは、私たちの成り立ちを知ることでもある。マクロな視点で、地球への眼を見開かせてくれる好著だ。発売後すぐに増刷が決定している。