管理職になると、やはり経営学というものが気になってくる。日本で大人気のドラッカーには、あまりの難しさに挫折してしまった。日本で売れに売れたベストセラーには申し訳ないが、高校生でも読んでできてしまう「ドラッカー経営」というのは正直無理がある。
ただ、座学ということなら、日本での最後の単著となったしなやかな文明論『ネクスト・ソサエティ』(ダイヤモンド社 2002年)や、牧野洋氏の優れたインタビュー・編集になる『ドラッカー20世紀を生きて 私の履歴書』(日本経済新聞社 2005年、現在は日経ビジネス人文庫『知の巨人ドラッカー自伝』2009年)には、とても啓発されるところがある。
世界レベルでの経営学の動向とは
日本の経営学者では、高橋伸夫東大教授の『できる社員はやり過ごす』(日経ビジネス人文庫 2002年)や『虚妄の成果主義 日本型年功制復活のススメ 』(ちくま文庫 2010年)で、少し前に日本で経営者の安易な給与削減策の便法として猛威をふるった「成果主義」の理論倒れ・ナンセンスさが自ずと理解できる。守島基博一橋大教授の『人材の複雑方程式』(日経プレミアシリーズ 2010年)も人材マネジメントの重要性を痛感する良書だ。
しかし、経営学の本をとりあえず1冊読むというのであれば、『事実に基づいた経営』(ジェフリー・フェファー、ロバート・サットン著 東洋経済新報社 2009年)をまずはお勧めしたい。最近、「ドラッカーなんて誰も読まない!?」という帯でも話題の『世界の経営学者はいま何を考えているのか』(入山章栄著 英治出版 2012年)は、世界レベルでの経営学の動向を解説している。フェファーらの主張は、経営学で主流の理論偏重に対するアンチテーゼである、エビデンス・ベースト・マネジメント(多くの実証研究で確認された経営法則を企業経営の実践にそのまま応用しようという考え方)として紹介されている。
フェファーらは、米スタンフォード大を代表する高名な経営学者であり、「よく耳にするし、全くの間違いではないのだが、問題や誤解を通じて組織の混乱のもとになる『半分だけ正しい』アイディアや手法について考え」てこの本を著した。高橋教授が批判する「成果主義」が「半分だけ正しい」ものであることを、本書で確認することができる。