「あなたは不正をしたことが一回もないか」と問われると、誰もがウッと戸惑ってしまうのでは。大半が「正直者」のはずなのに、小さな嘘やチョロマカシが絶えないのはなぜか。その名も『ずる』(ダン・アリエリー著、早川書房)という本がおもしろい。
日常にひそむ合理と非合理を「人々を笑わせ、考えさせてくれる研究」に与えられるイグノーベル賞を受賞した行動経済学者が解き明かす。で、創造性が高い人ほどズルしやすいだって? 本当かなー。【2013年2月3日(日)の各紙からI】
正直とごまかしのバランスとは
接待の参加人数を一人だけ多く会社に申請するようなことはないだろうかと、中央大学の田中洋さんが日経新聞で切りだす。「大多数の人々は大きな不正はしないが、ちょっとしたごまかしをする」との知見に、著者はさまざまな実験からたどりついたのだそうだ。よその子から鉛筆をとる子をしかる人も会社から赤ペンを失敬する、ゴルフボールを手では動かさない人もクラブで少しだけ……こんな例も出版社のサイトがあげている。なぜ、人は「ずる」をするのか。
著者の仮説は「つじつま合わせ」。自分を正直者だと思いたい。一方で、利益を得たい気持ちもある。この矛盾を「バランスよく成り立たせる結果、私たちはちょっとだけごまかしをする」とは田中さんの解説だ。言われてみれば、否定しきれないかも。
「偽ブランドを身につけると、ズルしやすくなる」「書類の署名位置を変えるだけで不正請求を減らせる」「作業前に倫理規定に従うとサインさせるのも有効」と本は語る。その倫理規定が実際になくても効果はあるというが、これはもう「ずる」には「ずる」をもって防ぐ一策。うなずきながらも、皮肉あるいは自嘲の笑いを浮かべるしかなさそうだ。