霞ヶ関官僚が読む本
南米コロンビアへの著者の熱い思い 「暴力横行で怖い国」の誤解を解く

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   『ビオレンシアの政治社会史』(寺澤辰麿著 アジア経済研究所)。本書の受け売りだが、南米コロンビアにおいて「ビオレンシア」(英語のバイオレンスに相当するスペイン語)という言葉は特別の意味を持つ。19世紀初頭のスペインからの独立以降の歴史的な社会事象としての内乱、反乱、暴動、一般犯罪などを指すもののようだ。コロンビアには、これを研究する学問分野もあるという。

   筆者を含め普通の日本人のコロンビアについてのイメージは、ゲリラによる誘拐や麻薬カルテルによる殺人が茶飯事の怖い国というものであり、上述のようなことを聞きかじれば、「なるほどコロンビアはビオレンシアの国なんだ」と短絡的に思い込んでしまう。しかし、本書を読んで、筆者のコロンビアについての認識は一変した。

「政治的ビオレンシア」など分析

『ビオレンシアの政治社会史』
『ビオレンシアの政治社会史』

   本書は、在コロンビア大使の経歴を持つ著者が、「コロンビアは暴力が横行する治安の悪い国だ」というような固定観念の誤りを実証的に正すべく著したものである。本書の「若き国コロンビアの悪魔払い」というやや異様な副題には、ビオレンシアというコロンビアに取りついた悪いイメージを祓い落したいという意図が込められている。

   著者は、コロンビアのビオレンシアを、政治的ビオレンシア、ゲリラと麻薬組織によるビオレンシア、一般犯罪としてのビオレンシアという3分野から分析する。筆者には、とりわけ政治的ビオレンシアについての論述が興味深かった。1853年という非常に早い時期から男子普通選挙を実施しているコロンビアでは、保守党と自由党の二大政党制が19世紀中葉から20世紀末まで続いた。独立時の2人の英雄シモン・ボリーバルとサンタンデールの両者の政治思想の違いにルーツがあるこの二大政党制が、政治的ビオレンシアの根本原因とされている。

   ビオレンシアの具体的要因を、両党を支持する階層の利害対立、カトリック聖職者の保守党への支持、大統領選挙の選挙運動の過熱などとする諸説ある中で、著者は政治的ビオレンシアが選挙後に主に地方で生じていることに着目して、二大政党制下の政権交代に伴う公職の入替えを契機とする農地をめぐる争いが要因であったと指摘する。政治的ビオレンシアは、1958年の保守自由両党が交互に大統領を出す国民戦線協定の成立により終焉を迎え、二大政党制自体1991年憲法の政党要件緩和により解消した。

【霞ヶ関官僚が読む本】 現役の霞ヶ関官僚幹部らが交代で、「本や資料をどう読むか」、「読書を仕事にどう生かすのか」などを綴るひと味変わった書評コラムです。

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