2紙の読書面トップにユニークな特集記事が載った。「猫の本」を読者からの投稿でしたてた読売新聞、昨今の「○○力」と名づけた本のブームについて扱った朝日新聞。どちらも世の一面をとらえている。【2013年1月27日(日)の各紙からII】
専門家にない温かさが
猫を愛する人は多い。「整理するのに猫の手を借りたいほど」の投稿があったそうで、それもそのはず、猫を扱った本もまた多数出ている。ことさらかまえて分類、あるいは特集されることが少ないだけで、実際すでに立派なジャンルなのだ。「あなたの愛読書をおしえて」の特集が紹介した猫本ラインナップには、学者や専門家の原稿にはない温かさと感動がほどよくにじみ出た。
読者のお薦めは町田康さんの『猫にかまけて』(講談社文庫)や荒木経惟さんの『愛しのチロ』(平凡社ライブラリー)といったエッセイや写真集。一方、村上春樹さんの『海辺のカフカ』(新潮文庫)にも猫は登場する。西加奈子さんの『きりこについて』(角川文庫)にも。平凡な感想だからこそ読者それぞれに猫と読書を愛していることがうかがえて、こういう特集もときにはいいなあと思わせる。
絵本では佐野洋子さんの『100万回生きたねこ』(講談社)、漫画ではほしよりこさんの『きょうの猫村さん』(マガジンハウス)とくると、もう定番か。
「これがでなければいけないぞ」というファンもいそうな夏目漱石『吾輩は猫である』(岩波書店の漱石全集などに所収)やエドガー・アラン・ポー『黒猫』(中公文庫)となると、けっこうシュールかも。この特集、今回は「上」で、3月に「下」があるそうだ。
官庁にまでがネーミングの理由は?
一方、あふれる「○○力」本を分析したのは社会学の牧野智和さん。阿川佐和子『聞く力』(文春新書)は昨年唯一100万部を超えたベストセラー。以前の渡辺淳一『鈍感力』(集英社)、池上彰『伝える力』(PHPビジネス新書)、姜尚中『悩む力』(集英社新書)といったベストセラーもあげる。起源は赤瀬川原平『老人力』(筑摩書房)と牧野さんは見立てる。根拠はもう一つあいまいだが、この本ならご記憶の人も多いだろう。
不透明な時代に力のネーミングがうけるのか。雑誌も「恋愛力」といった特集を組む。ただ、官庁までが「人間力」(内閣府)、「社会人基礎力」(経済産業省)とパクるところまでくると、人々の心理分析だけですませていいか疑問だ。福利切り捨ての理由に「自己努力」が持ち出され、言い訳や責任転嫁に都合よく使われたことを見過ごしてはいけない。
(ジャーナリスト 高橋俊一)
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