宇宙のしくみを、素粒子論の立場からわかりやすく語って定評のある物理学者・村山斉氏が『宇宙になぜ我々が存在するのか』を講談社から2013年1月18日に出版した。
著者の『宇宙は何でできているのか』『宇宙は本当にひとつなのか』は、著者独自の根底的な問いかけで宇宙を語り、いずれも10万部を超すベストセラーになっている。
はじまりはニュートリノのいたずら?
本書は、素粒子論のカギを握るニュートリノの話から始まって、私たちの存在に迫ろうという、前作にもまして野心的な試みだ。
私たちの体を構成する元素は、超新星の爆発でできた宇宙の塵からできているといわれている。だが宇宙が創成され、原子よりも小さくて非常に高熱だった頃には、「物質」と、「物質」とは性質がまったく反対の「反物質」が、生まれては衝突して消え、ということを繰り返していたという。そのままいけば、同じ数だけあった物質と反物質は、全部が出会っては消滅して、宇宙は空っぽになっていたはず。それなのに、宇宙になぜ物質が残り、星々が形成され、我々が存在できたのだろうか。
その鍵を握っているのが、いままで質量がゼロだと思われていたニュートリノや、正体不明の暗黒物質、そして最近みつかったヒッグス粒子にあると本書は語る。私たちを構成する「物質」が生き残るためには、物質の方が反物質より多くないとダメだったのだが、その割合を計算すると、約10億分の2個だった。つまりニュートリノのちょっとした「いたずら」が、10億個のうちの1個だけを、反物質から物質に変えたというのである。これによって、物質と反物質のバランスが崩れて、物質だけの世界ができ、星や銀河、そして私たちが生まれてきたということになる、という。
こうして、宇宙創成のときから始まって、私たちはどこから来たのかという、宇宙と「私」を一本につなぐ、壮大な謎解きに挑んでいるのが、本書である。
驚くべき物質世界誕生と、宇宙の根源に迫りながら、それが宇宙に存在する「私」の起源にまでつながるというのだから、読者をワクワクさせる。
「いたずらっ子」ニュートリノが、この宇宙の中で、私たちの存在理由だったという、「私」を「根源」から支えてくれる宇宙論のロマンを、堪能してみてはいかがだろうか。