インターネットで本の中身を無料公開するサービスが広がりつつある。主に複数巻シリーズのマンガやライトノベル(ラノベ)の販売促進手法で、公開が続編の重版につながっていく。作品と読者との接点ができる効果に、出版界の関心が集まっている。
「現代の立ち読み」と位置づける編集者もいる。その実状が日経読書面「活字の海で」コーナーに載った。一般図書にも及べば、読者にとってもメリットは大きい。【2013年1月13日(日)の各紙からII】
面白いとわかれば、本を買う人がいる
『東京トイボックス』(幻冬舎コミックス)のマンガ家うめが昨年11月、ツイッターでつぶやいた。「WEBで無料公開すると、紙本が動くってのは本当」。この一言に話題の核心が集約されている。新装版全2巻をニコニコ静画で公開したところ、続編にも旧編にも売り上げ効果があったという。
ネットで接して面白さがわかれば、本を買う人はけっこういる。機会づくりとして有効なことを、担当編集者も記事の中で認める。
ライトノベルでも、『スカイ・ワールド』(瀬尾つかさ著、富士見書房)3巻の発売を前に第1巻全編が無料公開された。閲覧者は約8千人、紙の本は1~3巻すべてで重版に。
小学館のラノベレーベル「ガガガ文庫」も17作品を9割無料の試し読みとして公開中。「有力な手法として定着していきそうだ」と日経の記事(署名・柏崎海一郎記者)はまとめている。
消費をリードする仕事とは
ほかには『職業、コピーライター』(小野田隆雄著、バジリコ)が朝日新聞に。短いフレーズをひねり出して、人を消費へとつき動かす。最先端をいく、人気の仕事だ。その駆け出し時代からのエピソードを記録した。
40年前、大学を卒業したばかりの青年が化粧品メーカーに入社して、宣伝部で命じられた初仕事は、なんと女性の生理用品。やっとできたのが「その日は雨でも、わたしは爽やか」だった。これを機に、著者は「女性専科」のコピーライターの道を歩み始める。
消費をいかにリードするか。「鋭い感受性が問われる」「何より言葉の魅力を心得ることなのではないか」と、評者の作家・楊逸さん。若者たちへの指針になるだろうか。
『世界しあわせ紀行』(エリック・ワイナー著、早川書房)を東京新聞が。スイス、ブータン、カタール、アイスランドの「それぞれのしあわせのかたち」を訪ね歩いた著者は、東京暮らしも経験したジャーナリスト。評者はドイツ文学者の池内紀さんだ。
(ジャーナリスト 高橋俊一)
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