脳科学研究の進歩が、意外な分野に影響を与えている。それは「粉ミルク」だ。
これまで日本の粉ミルク業界においては赤ちゃんの脳を発達させるための成分として、魚などに含まれるDHAが重視されてきた。ところが母乳との比較などから、このDHA以外にも重要な成分があることがわかってきた。
その名も「アラキドン酸(ARA)」。すでに海外では粉ミルクへの配合が盛んで、日本でも2012年に入り大手メーカーが含有量を大幅に増やすなど、業界に変化を起こしつつある。
DHAの「頭をよくする」効果をさらに高める
アラキドン酸はDHAなどと同じ脂肪酸の一種で、食品では主に肉・卵・魚・肝油などに含まれる。人間の身体では脳に多く、脳の脂質のうち12%を占め、DHAとともに脳内の電気信号伝達を助ける役割を担っている。
近年の研究でわかってきたのは、このアラキドン酸がDHAを助け、赤ちゃんの脳の細胞分裂を促していることだ。人間の脳は胎児期の後半から生後1~2年にかけて大きく成長し、3歳までに大人の約90%の重さにまで発達する。そのためにDHAが重要だということは以前から知られていたが、東北大学医学部の大隅典子教授のグループの研究(2009年)によれば、アラキドン酸はまた脳細胞の遺伝子に直接働きかけ、ニューロンなどの生成(神経新生)を引き起こす「スイッチ」役を果たしていると推測されるという。
栄養学分野での研究でも、赤ちゃんの言語能力などの発達のためには、DHAとアラキドン酸を適切な量与え、またそのバランスをとることが大切だと指摘されている。実際、母乳にもDHAとアラキドン酸はともに豊富に含まれており、この両者をしっかり取ることが、赤ちゃんの「頭をよくする」ために重要だと考えられるようになった。